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 ……和彦って、多分こっちに居るイケメンの事だよな。  離れた席に固まってる残りの二人は、身なりこそイケてるけど顔がちょっと残念だし。  俺の向こう側に視線を寄越した山本が前のめりになってる事から、やっぱりこのイケメンが「今日一番人気の和彦」みたいだ。  和彦は長い足を組み、優雅にカシスソーダを飲んでいる。  見た目は赤ワインとか度数の高いカクテルとかを嗜みそうなのに、飲み物は意外と可愛い。 「誰も狙ってないですよ。 お好きにどうぞ」 「マジで! あぁ、そうか、和彦も占部から無理矢理連れて来られたパターンだっけ」 「そうです」 「よっしゃ! じゃあ今日も俺の独壇場だな!」 「そんな大口叩いてると他の人達に先越されるよ」 「いーや、今日は俺のひとり勝ちだ!」  山本は「ふふん」と得意気に、そして嬉しそうに割り箸を握って友人らの元へ戻って行った。  気合いの入り方が違うのは、バッチリ決めてきた服装や髪型ですぐに分かった。  いけない事だけど、あの二人と比べたら山本がひとり勝ちだって騒ぐ気持ちも分かる。  でもあんなに分かりやすくギラギラしてたら、女の子達も引いてしまうんじゃないの。  女日照りが続いている山本の張り切り具合に、空っぽになった和彦のカシスソーダのグラスを見ながら笑った。 「王様ゲームだって。 下心見え見えだね」 「聞いたことはありますけど、……具体的にどんなゲームかは覚えてないです」 「そうなんだ? えーっと、あいつが持ってる割り箸の先に番号と「王様」ってのが書いてあるんだ。 それを隠して、くじ引きみたいに一人一人に引いてもらって……」 「あぁ! 王様を引いた人が番号を指名して命令できるんでしたっけ」 「そうそう」 「ふーん。 ……楽しそう」  微笑んだ和彦の横顔に意外さを覚えた。  あんまりどころかまったく興味がないかと思ったら、どことなく楽しげだ。 「名前は、七海さん?」 「あ、うん。 あなたは和彦さん?」 「そうです。 呼び捨てで構いませんよ、僕年下なんで」 「えぇ? 年下なのか? いくつ?」 「二十歳です」 「マジで!? 俺より二つも下なのに何でそんな落ち着いてるの……」 「ふふっ……。 七海さん、王様ゲームが終わったら抜けませんか? 二人で」 「え……」  こんなに雰囲気が大人な和彦が年下だって事に驚いてる間もなく、「万が一」の囁きが唐突にやって来た。  速攻で断ろうとした俺は口を噤んで、しばし考える。  俺を誘ってるわけじゃなく、和彦もこの場が面倒に感じてるだけの可能性もあるから、早とちりするのは危険だ。 「……それって深い意味はないよね?」 「深い意味?」 「あ、ないならいいんだ。 抜けるだけなら全然いいよ、大丈夫。 俺さり気なく気配消して抜けるのうま……」 「ねぇ七海さん。 過去に何度も……って言ってたの本当なんですか?」 「わぁっ! やめて! すごいナンパ野郎みたいで嫌なんだよ、そう言われんの!」  和彦、俺と山本の会話しっかり聞いてたのかよ…。  口を挟んでこなかったから、聞こえてないんだろうなと思って油断してた。  お持ち帰りされてるのは本当だけど、俺は断じて尻軽なんかじゃない。  和彦は上体をやや倒し気味にして、わざわざ俺の目を覗き込むようにして視線を合わせてきた。 「誘われるんですか? それとも七海さんから誘うの?」 「俺から誘うわけないよ!」 「……でもついて行ってる、って事ですよね」 「うっ……まぁ……」 「山本さんの言い草的に、相手は男……」 「も、もういいじゃん! カシスソーダまだ飲むだろ? 俺注文してくるね、混んでるから直接店員さんのとこ行ってくる」  これ以上追及を受けると、言いたくない事まで言わされそうだから、文字通り俺は急いで立ち上がった。  そんな俺の腕を、和彦がガシッと掴んで立ち上がる。  「痛い!」と言おうとした俺は、立ち上がった和彦を見上げて驚いた。  ……わぁ……マジで背高いな。 「僕も行きます」

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