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 動揺しながら、ハイテンションで各席を移動している山本の手から割り箸を抜き取り、和彦も同じように割り箸を抜いて俺を見詰める。  女の子達はチラチラと和彦に視線を送ってるし、みんなが王様ゲームの始まりに湧き立ち始めても、俺は握られた手のひらが気になってそれどころじゃなかった。 「俺が王様かぁ! それじゃあ……三番と五番は手を繋いでくださーい」 「三番と五番だれー?」  誰よりも王様になりたくなかったであろう山本が最後の割り箸でそれに当たってしまい、やや声のトーンが落ちている。  ゲームにかこつけて女の子とイチャイチャ出来ると思ってたんだろうけど、仕方ないので番号と命令を告げた。  みんなにならい、俺も持ってた割り箸の先を見てみる。 「あ、……俺五番」 「僕は三番です」 「えっ…!」  マジで…!?  三番と五番は手を繋ぐ、って…もう繋いでるんだけど…。 「七海と和彦か! 恋人繋ぎよろしくーっ」 「キャ〜っ♡」 「和彦くんと七海くん、お似合いだぁ♡」  よろしく、と言われる前に、和彦がテーブルの下で恋人繋ぎに切り替えてバッとみんなに証拠を見せた。  和彦、めちゃくちゃ手慣れてる。  二十歳だって言ってたけど、こいつ相当な場数を踏んでそうだ。  女の子達は、和彦の相手が男である俺だからかキャーキャー騒いで囃し立ててくる。  俺は恥ずかしくてたまんないから俯いてるってのに、チラッと和彦の横顔を窺うと何とも綺麗な微笑みを浮かべていた。 「ほーんと、お似合いだな! そのままキスしちゃってもいいんだぞー!」 「お、おい! 山本!」 「いいじゃん、いいじゃん! 七海、楽しい飲みの席なんだから!」 「いいんですか? じゃあ遠慮なく」  どういう事だよ!  こ、こんな、みんなが見てる前で男同士がキスするなんて、飲みの席だからって言い訳が通用するはずない。  そもそもなんで和彦は乗り気なんだよ。 「いやいやいや、ちょっと待ってよ!」 「七海さん、王様の命令は絶対なんですよ」 「キスの命令なんてされてなかった!」 「じゃあ今命令する。 三番と五番は恋人繋ぎプラス、キスしちゃってくださーい」 「なんで…っ、……っっっ!」  恋人繋ぎ同様、山本が言い終わらないうちに和彦に顎を取られて唇を押し当てられた。  チュッ、とキスをした瞬間、女の子達がさらに色めき立つ。  恥ずかしい。 今すぐここから逃げ出したい。  こうなった以上、山本のメンツとか考えてられない。  ──てか長いんだけど。  和彦からのそれは、触れるだけの一瞬のキスでは済まなかった。  顔を傾けて、なんと舌まで入れてきやがったんだ。  みんなが見てる前で、舌をくるくる動かして俺の舌と遊んでいる和彦はやっぱり手慣れている。  俺は、初めてなのに。  初めてのキスだったのに。 「おいおい、そこまでやれとは言ってないぞ〜」 「………っっ、…!」 「和彦ー、もうやめてやれ〜! 七海が窒息する」 「…………ぷはっ……っ」  数分にも渡って口腔内を犯された俺は、和彦の肩をバシバシ叩いて力が緩んだ隙に、急いで唇を離した。  …ディープキスってこんなに苦しいんだ…。  山本の助け舟が無かったら、みんなの前だって事なんかお構いなしにいつまでもされてたかもしれない。  顎を持たれてたはずの和彦の手のひらが、いつの間にか俺の後頭部にあって逃げられないようになってたなんて…気付かなかった。 「一発目からすげぇもん見たわ! じゃ次一番と……」  俺はまだ心臓がバクバクしてるのに、何事もなかったかのように王様ゲームが再開されている。  何なんだよ…俺のドキドキと初キスの余韻を返せ。  まさか初対面の奴に、しかもゲーム上で奪われるなんて思いもしなかったんだから。 「──可愛い。 初なフリがうまいですね、七海さん」 「はっ?」 「ついおかわりしたくなっちゃいます」 「バ、バカ言うなっっ」  目の前でゲームが続行されているの尻目に、和彦がお得意の耳打ちで囁いてくる。  誘われてると分かってから、優しそうなこいつに警戒心でいっぱいだったけど、さっきのキスで厳重警戒に入った。  これ以上関わると危険だ。  今まで、こんなに強引にあれこれしてくる奴は居なかった。  痛いくらい腕は掴んでくるは、手を握ってくるは、命令を理由にねちっこいキスを仕掛けてくるは……。  見た目がめちゃめちゃ良くて雰囲気が柔らかかったから、油断どころか心を許してしまっていた自分を心底呪った。 「七海さん?」 「……………………」 「七海さん、怒ったんですか?」 「怒るだろ。 こんな人前で…あ、あ、あんな…っ」 「いいじゃないですか、初めてじゃあるまいし。 今夜は僕ともっと熱いキスをするんですよ?」 「し、しないって! 俺約束あるんだってば…」 「行かせない、って言ったら?」 「なっ………」

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