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こいつはマジで危険だ。
こんな歯の浮くような台詞、誰にでも言ってんだろうな和彦…。
手慣れた動作と言い慣れた口説き文句に、俺はムッとしたままウーロンハイを半分近くまで一気に飲んだ。
本当は一次会の最後まで居てあげようとしてたけど、今日は俺の貞操が危なそうだから早々に抜け出そうと決める。
誰に誘われても唇も体も許してない俺が、こんな初対面のナンパ野郎に裸を見せるわけにはいかない。
俺じゃなくて和彦がナンパ野郎だったとは、ほんとに油断が過ぎた。
寄り添ってくる和彦からさり気なく距離を取っても、その分近付いてきてマジで怖かった。
「行かせたくないですよ。 誰かとセックスするって分かってて、七海さんとバイバイするなんて出来ない」
「いや……何言ってんの…?」
「僕も七海さんの「友達」になりたいです」
「和彦…お前……っ」
含んだ言い方に、和彦が俺を完全に尻軽男だと誤解している事に気付いた。
やたらとグイグイくるなと思ってたのも、俺が誰にでもすぐヤらせる男だって勘違いしてるからだったんだ。
───そんな事、ないのに…。 俺は、この人って決めた人じゃないと嫌だったから、キスもエッチも今まで誰ともしてこなかったのに……。
「この場で今すぐ、約束の方へキャンセルの連絡をしてください」
「なんで和彦にそんな事言われなきゃ…!」
「今日は僕が相手です。 今夜の七海さんは誰にも渡さない」
「何を、言って…」
い、嫌だ。 見た目も声も背丈も抜群にいいけど、ナンパ野郎な和彦が相手なのは嫌だ。
もっと、色んな想いを知った後で、ドキドキしながら初めてのキスをする…その夢を一つぶち壊されたんだから、ぶっちゃけもう顔も見たくない。
和彦はノンケなのに、なんでこんなに俺と寝たがってるんだろ。
何の思い入れもない和彦が初エッチの相手だなんて考えられないし、考えたくもない。
俺の事なんか構ってないで、「一番人気」なんだから女の子達と楽しく喋ってたらいいのに。
ノンケなのはパッと見た感じでも分かったし、和彦本人もそう言ってたよな?
何故か俺はノンケに好かれてしまう質だけど、今までこんなに貞操の危機を感じた事はない。
恐る恐る和彦の目を見てみると、怖いくらい見つめ返された。
──やっぱり、和彦の隙をついて抜け出すしかない。
このままここに居たら、確実にヤられてしまう。
やんわりとして一見優しそうなのに、意外過ぎる強引さでホテルにでも連れ込まれたら……一巻の終わりだ。
そうと決まればと、俺は和彦からの視線から逃れるようにしてウーロンハイを飲み干し、立ち上がった。
「ちょ、ちょっとトイレ行っ……ッッぅわ、…っ」
───え、なに───?
立ち上がったはいいけど、テーブルに付いた手に力が入らなくて見事によろけた。
手だけじゃない。
全身から力が抜けた。
転びそうになったところを和彦の腕に支えられて、「ありがとう」と言おうとしても唇が動かなかった。
あれ…俺、ウーロンハイ二杯で酔った…?
俺はアルコールに極端に強いわけじゃないけど、弱いわけでもない。
ウーロンハイ二杯くらいじゃ酔わないはずだった。
王様ゲームで盛り上がってるみんなは、俺の変化には気付いてない。
目の前がグルグルしてきた。
視界に入るみんなもグルグルしていて、気分が悪くなってくる。
外に、外に出なきゃ……外の空気を吸えば少しはよくなる、きっと──。
「やっと効いてきましたか。 七海さんには通用しないのかと不安になってきたところでしたよ」
「…………………?」
支えてくれた和彦の腕に力が加わり、抱き寄せられたと同時に俺の意識は途切れた。
堕ちる間際、……何だかとても物騒な事を囁かれた気がした。
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