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夜中にひとり暮らしの自宅に到着すると、シャワーを念入りに浴びて着替えもそこそこにベッドに入った。
タクシーもなかなか捕まらなかったし、体にまとまりついた体液は時間が経つとパリパリになってにおいが濃くなるって知らなかったから、それを落とそうと躍起になってシャワーだけで一時間は入ってたんじゃないかな。
どうでもいい事をどうでもいい男に知らされる羽目になって、苛立ちが治まらない。
いや、──とにかくもう忘れよう。
こんな初エッチの思い出なんか、夢だったって事にして記憶から消してしまうのが一番だ。
「うぅ……だるい……」
ベッドに横になっても、居酒屋で意識を飛ばす前のだるさをまだ引き摺っていて、変な感じだった。
初めてのセックスの後にちょっと走り回ってしまったから、そのせいもあるのかもしれない。
普段はあの程度の酒量じゃ酔わないっていうのに、今日は一体どうしちゃったんだろ…。
和彦の言っていた「噂」というのも気になるし、……って、もういいや。
忘れるったら忘れるんだ。
目を閉じてもしばらく眠れずコロコロと体勢を変えていた俺は、疲労困憊も手伝っていつの間にか眠りに堕ちていた。
翌日、授業に出てこない俺を心配する山本からの着信で飛び起きた俺の目覚めは、最悪だった。
だるさが継続中で上体を起こせなくて、しかも頭がズキズキと痛い。
正直にそう山本にも伝えると、『大丈夫か?』とさらに心配された。
「大丈夫。 それより昨日はごめんね、最後まで居てあげられなくて」
『七海が酔い潰れるのなんて初めてだから焦ったぜ? マジで大丈夫?』
「大丈夫、大丈夫。 でもちょっと頭痛いのはしんどいから、今日は大学休むね」
『おぅ、分かった。 そういや、あれから和彦とはどうなったんだ? 七海酔い潰れたんならいつもの諭しは出来なかったんじゃね?』
「…い、いや、何も覚えてない。 気付いたら家に居たよ」
そうか…昨日は酔い潰れた俺を和彦が送ったっていう体になってるんだな。
俺の性癖を知る数少ない友人である山本も、昨日の悪ノリに申し訳無さを覚えてるらしい。
でもあの王様ゲームという建前が無くても、昨日はあぁなってたと思う。
和彦の粘着と勘違いはちょっと尋常じゃなかったからな。
だからって、和彦から初めてを奪われた…なんて山本に言ったら、それこそ気にして気まずくなってしまう。
余計な事は言わないに限ると、俺は何もなかったフリをした。
『そうなんだ? まぁ俺は昨日収穫あったから、和彦連れ出してくれた七海にはマジで大感謝! ありがとな!』
「そ、そう、良かったね。 その話は明日ゆっくり聞かせて」
引くくらいギラギラしていた山本がうまくいったんなら、それだけでも良かった。
通話を終えてスマホを枕元に置くと、我慢できない尿意には逆らえず無理矢理体を起こす。
トイレを済ませてその流れで歯磨きして顔を洗っても、頭痛は解消されない。
仕方ないから今日は一日ベッドの住人を決め込んで、温もった布団に包まるとちょっとだけ気が休まる。
昨日の和彦とのセックスは考えないようにして、再び目を閉じた。
「はぁ…」
腰の鈍痛や穴の違和感が拭えないから、自然と溜め息が漏れる。
でもまぁ、山本が彼女を作ってくれさえすれば、俺への合コンの誘いもほとんど無くなるからな。
声がやたらと明るかったとこを見ると、一晩だけの相手ってわけでもなさそうでそこも安心だ。
何だか俺の妙な噂が流れてるみたいで怖いし、誘われても近々は行ってあげられないなと思ってたからほんとに良かった。
「それにしても…悪魔とか魔性の男とか…誰だよ、そんな事言ってんの…」
和彦が聞いたという俺の噂は、決していいものではなさそうだ。
合コンで知り合って誘われたと言っても、俺は誰にも体を許してないし、知らない人とはキスすらした事ない。
一次会で抜けてホテルに直行しようとした男にですら、「飲み直そ」と言って居酒屋やBarに無理やり連れて行く。
そこでするのは、「諭し」という名の盲目解除だ。
めぼしい収穫が無さそうな場合、小さくて華奢で、容姿だけは女の子に負けない(と、自負する)俺がその場に居るとどうしても狙いにやってくる。
ゲイの立場からすると、ノンケが男を好きになる可能性なんてゼロに等しいと思ってるから、ホテルで俺の体を見せる前に目を覚まさせてあげるんだよ。
やる気満々で合コンに参加して、酒も入り、薄暗い店内で気分も盛り上がって、「男でもいい」と鼻息荒くしてる奴は絶対、俺の裸を見た瞬間…後悔するに決まってる。
だって、俺が女の子に勝てるものなんて何一つないもん。
男にしてはちょっと華奢で中性的な顔してるってだけで、体はちゃんと男なんだから。
それが分かってていざとなった時ガッカリさせたくないし、されたくもない。
酔っ払ってても、しっかり目を見て真剣に諭してあげるとみんな分かってくれた。
だから、そんな悪い噂立てられるなんて心外もいいとこだ。
毎回毎回、面倒でも俺はそうやって自分の貞操を守ってきた。
それなのに……人を遊び人のように吹聴するなんて、誰だか知らないけどマジでヒドイ。
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