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 和彦に襲われた悪夢と、良からぬ噂のダブルのイライラで頭がショートして、寝落ちしてしまっていた。  うるさい着信音で目が覚めると、相手を確認するよりも先に時刻表示に目がいく。  あれ、まだお昼前じゃん。  半開きの目でそのまま着信相手の名前を見た俺は一瞬、「誰だっけ…」と考え込んでハッとする。 「あ! しまった、九条君!」  ──ヤバイ! 俺は昨日、九条君と飲む約束してたから和彦の誘いを断ってたんだ!  謎の酔い潰れとその後の和彦とのセックスで、完全に約束を忘れてしまっていた。  言い訳も弁解も謝罪もしないで、単純にすっぽかしたって事になる。  俺、最低だ……!  怒鳴られるのを覚悟で恐る恐るスマホを操作するも、電話の向こうの九条君はいつもと変わらない調子だった。 『七海? 昨日どうしたんだよ』 「ご、ごめん! 昨日一次会で酔い潰れちゃって…! 九条君ずっと待ってたんじゃ…!」 『返事こなかったから都合悪くなったんだろーと思ってすぐ帰った』 「そ、そうなんだ、ごめん…! ドタキャンしちゃって…ほんとごめん!」 『いいって、そんな謝んなくても。 今日は? ダメ?』 「今日………」  意図せずとはいえドタキャンした事に変わりはないから、てっきりブチギレられるかと思った。  九条君はそんな怒るタイプじゃないけど、さすがに今の今まで連絡しなかった俺は申し訳なさでいっぱいだ。  ただ、今日は体調が絶不調なんだよなぁ…。 『都合悪い?』 「あ、いや…頭痛くて大学休んじゃってるから、出歩くのはちょっと…」 『頭痛い? 七海、酒弱くないよな? そんな飲んだのか?』 「飲んでないと思うんだけど…」 『じゃあ見舞いがてら家行くわ』 「え、いいよ、見舞いなんて。 九条君、午後も授業あるだろ? 明日じゃダメなの?」  確かに昨日は、九条君から話があるって事で急な約束だった。  俺もその話を聞いてあげたいのは山々だけど、わざわざお見舞いに来るとまで言われるとちょっと考えてしまう。  まだ頭痛も残ってるし…って意味でやんわり断ろうとしてるのに、九条君は引かなかった。 『俺は明日でもいいけど、七海の事が心配だから』 「心配って…頭痛いだけだよ…」 『とにかく行くから。 何か食えそうなもんは?』 「ん……要らない」 『はいはい。 適当に買ってくから食えよ。 じゃあな、一時間後には行ける』  え、と思った時にはもう通話は切れてしまった。  ……うーん…。  本音を言うと、ドタキャンした事は棚に上げて、ほっといてくれよと項垂れた。  九条君が来るなら寝てもいられないし、あんまり飲みたくはないけど、頭痛薬を探し出してテーブルに置いておく。  以前、軽率に空きっ腹に頭痛薬を飲んで胃痛を味わってから、薬を飲む時は気を付けている。  九条君が何か買ってきてくれるって言ってたし、それを食べてからじゃないと怖くて飲めない。  こめかみに走るズキズキとした痛みを引き摺ったまま、寝汗をかいてたからシャワーを浴びて、特に汚れてはいなかった部屋にも掃除機をかけた。  そうこうしていると四十分が経ち、ソファ代わりのベッドに腰掛けて一休みしているとスマホが着信を知らせる。  今日は電話がよく鳴るな。  九条君からの「もうすぐ着く」の連絡だろうと思い込んで画面を見ると、表示されていたのはなんと忘れたつもりの「和彦」だった。 「えっ、はっ!? なんで…!? …あいつ勝手に俺のスマホ操作しやがったのっ…?」  俺は当然、和彦の名前と番号なんか登録した覚えはない。  ──スマホを持つ手が震える。  和彦の名前がそこに表示され、鳴り響く着信音にビクビクしてしまう。  嫌な思い出としてインプットされた昨日のセックスが蘇ってきそうになって、慌てて頭を振った。  おかげで余計に頭痛が増した。  てか、大体、和彦と会話したのもトータルほんの何分かだ。  腕を引っ張られたり、手を繋がれたり、キ、キスされたり、襲われたり……とにかく会話らしい会話なんてほとんどしてないのに、俺はこんなにも和彦を拒否ってる。  出渋っていると着信は切れてホッとしたのも束の間、また掛かってきた。  わぁ……これ出なきゃ永遠に掛かってくるんじゃないの…!  着信拒否をする暇もなく秒でかけ直してきたので、もう出てしまった方が早い。  そうだ。 いっその事、二度とかけてくるなって怒鳴ってやろう。 『あ! 七海さんっ? 体は大丈夫ですか?』 「大丈夫じゃない! なんで俺のスマホに和彦が居るの! もう電話してくるな!」 『待って! 切らないで!』 「………………何っ」

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