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昨日の合コンの場でも、セックスの最中も、和彦はやたらと俺が経験豊富みたいに意地悪な事を言ってきてたけど、何もかもその噂が原因だったんだ。
俺が男遊びしてるって、デカ過ぎる尾ひれのついた噂のせいで勘違いした和彦から、俺は……大切にしてきた初めてを奪われたっての……?
そんな根も葉もない…とは言い切れないけど半分以上は真実じゃない、くだらない噂のせいで……?
「……七海さん体ツラいのにこんな事…ごめんなさい。 この話は風邪がよくなったら改めてしましょう。 引っ越しの件も、七海さんの気が進まないなら保留で構いません。 でも完治まではどうか…ここに居てください」
ね、と寂しそうに微笑んだ和彦の表情は、確かな俺への「心配」を覗かせている。
俺が合コンの場で男をお持ち帰りしてたっていう事実がその噂を生んだって事は、俺もちょっとだけ悪い。
でも、噂に振り回されて俺を襲った和彦の方がもっと悪い。
───許せない。 そんな優しい顔して切なく笑っても、許しはしない。 許せるはずないよ。
ベッドに腰掛けてきた和彦は、薬の入った袋から二センチ四方の何かを取り出して見せてきた。
「七海さん咳がひどいからこのシール貼りましょう」
「………………?」
「これ、咳止めのシールらしいです。 胸元、もしくは背中上部に貼ると教わりました」
「咳止め?」
そんな画期的なシールがあるんだ…!
頭がボーッとするよりも咳がツラかったから、それはありがたい。
「はい。 それでは失礼しま…」
「ま、待って待って待って! 自分で貼る!」
上体を起こそうとした俺のシャツを遠慮なしに捲ろうとした和彦の腕を、慌てて止める。
しょんぼりしてたと思ったらもうこれかよ!
「やめろって! 自分で貼るってば!」
「恥ずかしいんですか? じゃあ…背中にします?」
「背中…っ?」
前を見られるのは嫌だ。 恥ずかしい。
昨日はこれ以上に恥ずかしい事いっぱいされたし、今日も知らない間に何度も裸を見られてるっぽいけど、意識がある今はとてもそんな羞恥耐えられそうにない。
「七海さん、僕にお世話させて下さい。 はい、ちょっとだけ後ろ向いて」
「……………………」
グイと肩を持たれて和彦に背を向けた俺の熱っぽいほっぺたが、もっと熱くなっている気がした。
シャツを捲られて、和彦の手のひらが俺の素肌に触れる。
急な人肌にピクッと体を揺らすと、間を置かずに両肩甲骨の間にぴとりとシールが貼られた。
「ん……ん…っ、ちょっ……!」
………それだけじゃなかった。
和彦は俺の体を自分に寄せて羽交い締めにすると、背中に何度も口付けてくる。
俺が動けないのをいい事に、ちゅ、ちゅ、って何回も何回も…。
「和彦っ……やめ…っ」
「七海さん…可愛い……」
「やめろってば! …やっ、…んっ…」
「ちっちゃいんですもん…僕の腕にすっぽりだ。 ……可愛い……」
イヤ、やめろ、やめてくれ…!
下腹部がゾワゾワして、触れられた唇の熱を直に感じると変な声が出た。
耳元で囁くのもやめて。
ドキドキなんてしたくないんだよ、和彦なんかに…!
「…大変だ。 また七海さんの魔性に引っ掛かってしまいました。 やめてください、これ以上僕をメロメロにするのは」
「なっ…!? やめてくれって俺の台詞だ! 和彦が勝手に…っ」
「あぁ、ほら。 興奮したらまた咳出ちゃいますよ、シーッ」
「…………!!!」
ムカつくー!!
なんで俺が「シーッ」ってされなきゃなんないんだよ!
和彦が背中にちゅってしながらイケボで囁いてくるのがいけないんだろ!
あれだけで、明らかに感じてしまっていた俺は自分にもムカついた。
「可愛い声も聞けた事ですし、今日はもう寝ちゃいましょうね。 いつまでも起きてちゃダメですよ、七海さん」
「和彦が寝かせてくんないんだろ! ここに拉致されなきゃ俺は家でとっくに寝てるよ!」
「僕が寝かせてくれないだなんて……照れるじゃないですか。 七海さんが風邪引いてなきゃ、もっと違う意味で「寝かせない」って言うのに」
「やめろ!!」
「ふふっ…。 七海さん、本当に初なフリがうまいですね。 そんなに魔性を出さなくても、僕はもうメロメロですよ」
ついさっきまで肩を落とし気味にして嘆息してたのに、なんでもう「変な奴」が復活してるんだよ…!
噂の根源である俺自身もほんのちょびっとだけ悪かったのかなって、自省してたのが阿呆らしくなってきた。
俺を解放し、ポカリを手に取った和彦がニコ、と笑顔を向けてくる。
爽やかなお兄さん風情の和彦は、ペットボトルを握って蓋を開けた。
飲み口に唇を付けている。
…飲んでない。 ほっぺたに溜めてる。
───嫌な予感。
「…んんっ…っ!!」
「もう一回ね」
「ん、っ? ……っんんーっっ!」
「ゴックンして」
──ポカリは口移しで飲まなきゃダメなのか!
最後に唇を舐められた俺は、呆然と和彦の瞳を見詰めた。
俺…なんでジッとしてたんだ。
ここは和彦の家で、和彦のベッドなんだから、濡れようが汚れようが良かっただろ。
やめろって和彦の胸を押し戻さなかった自分が信じられない。
普通に飲ませてほしい。
何回やられたら気が済むんだよ。 学べよ、俺。
満足気な和彦の熱い視線から逃れたくて、俺はいそいそと布団を被った。
「七海さん、喉が渇いたらまた言って下さいね」
「言わない! 二度と言わない!」
布団の中から反論しても、何にも意味ないって。
だって和彦、…クスクス笑ってる。
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