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本心 ─和彦─※

 唇で触れる度に、華奢な体が小さく揺れ動く。  真っ白な肌はさらさらとしていて、触り心地がとても良い。  女性とは質感が全然違うけれど、僕は七海さんの肌が好きだ。  誰にも触れられた事のない小さくて薄紅色の乳首は、僕が舌で一舐めする毎に存在感を示してきて可愛かった。  恥ずかしいからと我慢していたらしい声も、穴に指を挿れて掻き回し始めてからは抑えられなくなっている。  話し声とはまったく違う高い嬌声は、僕の理性を簡単に打ち砕いてしまって、早く中に入りたくなって性器がウズウズした。  感じてくれてる。  それが分かると余計だった。  こんなに可愛い声を上げていても、七海さんの視線にはまだどこか迷いがある。  でもそれは僕も一緒だよ。  僕にとっても初めてのセックスみたいに、今すごくすごくドキドキしてるんだよ。  誤解して、七海さんには身に覚えなんてないのに意地悪な事をいっぱい言って、本気の「嫌だ」を僕は都合良く聞き逃していた。  男漁りしていると確信に変わった中の具合も、夜な夜な自分でいじっていたと知って、未経験のしおらしい七海さんらしさに愛しさが湧き上がってきて止まらない。  他人から与えられる性愛を知らない七海さんの心と体を、はじめは紛れもなく傷付けた僕が奪ってしまう罪深さを未だ感じている。  それと同時に、僕しか知らない、好きな人を僕の色に染められる喜びは例えようがなかった。 「んぁ……っ、んっ……っ……」 「気持ちいいですか? 七海さんのここ、ずっと漏らしていますね」 「やっ、やぁ……っ、い、言うな……っ」 「可愛いです。 本当に……すべて僕のものだと思うと興奮します……」 「わ、ぅわわっ、……ちょっ、舐め……!?」 「痛いですよ、七海さん。 そんなに僕を捕まえていなくても、僕はどこにも行きません」 「ち、違う……っ、和彦、いいよ、舐めなくて、っ……やぁぁっ……!」  触ってほしそうに、扱いてほしそうに、とろとろと透明な液体を零し続ける七海さんの可愛い性器を口に含むと、すぐに精液が飛んできた。  口の中に七海さんの精液がどろりと広がる。  ───こんな味なんだ。  飲んでもいいのかなと迷いながら、瞬間的な射精で体力を持っていかれた七海さんを見てみると、例え難い虚ろな目をしていた。  刹那、僕の心に湧き上がったある衝動。  この世と夢の世界の狭間に居るかのような、無防備で無警戒で純白な七海さんを存分に狂わせたい。  もっとこの顔が見たい。  もっと、叫びに似た声を上げてほしい。  こんなに誰かを壊してみたいと思った事がなかった。  虚ろに天井を見上げる七海さんに見惚れながら精液を飲み下して、そのまま性器を舌で愛撫した。 「……ふ、っ……、……っっ、和彦、も、もうやめ……っ」 「………………」  ひっきりなしに甘い吐息が聞こえる。  肩を掴む七海さんの指が、ギリギリと僕の肌に食い込んで痛かったけれど、もっと傷付けてほしいと思った。  七海さんに壊されるのなら、甘心だ。  その代わり、僕も罪深さを抱いて七海さんを壊す。  好きだから、僕のものにしたいから、僕だけの七海さんで居てほしいから。  今はまだ破壊衝動とまではいかないけれど、七海さんへの好意は底無しだからいつか本当にその衝動に囚われてしまいそうで、……僕は……自分が怖い。 「初めての時は僕も必死だったんだ……」 「……っ、……え……?」  七海さんの性器が二度目を期待して先走りを零し出している。  可愛く僕を誘う小ぶりな性器は、僕の唾液でツヤめいて尚も「舐めて」と甘えてきていけない。  初めての時に七海さんに与えてあげられなかった快感を、別の場所で教えてあげたいから今は我慢してね。  こんなにも愛しさが湧き上がってくる、この甘くて幸せな気持ちを知らないまま「初めて」を奪った事が、自分でした事とはいえやっぱり解せない。   「ちゃんと七海さんを愛さなかったんです。 七海さんに嫌だ、やめろ、と言われる度に自制が働いていました」 「そ、そりゃ、……言うに決まってんだろ!」 「そうですよね、……ごめんなさい……。 今思えば分かる事です。 僕は男性を抱くのも初めてなら、嫉妬に駆られて我を忘れるというのも初めてでしたから」 「……っ? 嫉妬……?」 「はい。 ……その話はまた後でしましょう」  七海さんの「分かんない」の顔は、どうしてこんなに凶悪なまでに可憐なの。  いつもいつも、キスだけで我慢していた僕はこの状況を手ぐすねを引いて待っていた。  七海さんがいくら可愛く首を傾げても、僕の腕に縋りついてきても、もう止まらない。  たぶん、挿入ってしまったら僕は、七海さんを壊す前に自分が壊れる。  勃ち上がった僕のものを握り、愛していますと耳元で囁いて合図をした。  心の中では、ごめんなさい……と付け足しながら。  この初めてのやり直しは、嫉妬からくる欲情ではない。  ドキドキすると言ってくれた事が嬉しくてたまらなくて、好きが溢れて止まらなくて、改めて感じた新しい独占欲に心が踊った。  興奮を抑えて先端を孔にあてがうと、……もう温かい。 「……っ和彦……、お願い……痛く、しないで……」  ずる、と無理に入っていかないように、慎重に腰を動かそうとした僕に寄越した可憐な七海さんの懇願は、相変わらず魔性だった。

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