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 七海さんのポカポカした身体が僕の肌に密着した。  逃げるなんてとんでもない。 本当に、力強く、ぎゅっ…と抱き締めてくれた。  熱い身体を僕に押し付けて、細い腕をめいっぱい伸ばし、快感に溺れて我を忘れてではなくしがみついてきたこれは、……間違いなく僕の望む確固たる抱擁だった。 「逃げないって、言っただろ」 「……はい……」  僕の耳元で涙声のまま七海さんがそう囁くと、もっと腕に力を込めてくる。  浅はかな嫉妬にまみれた心が洗われていくようだった。  ───なんで僕はこうなのかな…。  七海さんを泣かせたくない、七海さんを困らせたくない、七海さんにだけは優しくしたい……。  こんなに好きなのに、大事にしたいのに、どうして出来ないの。  七海さんの初めてを奪ってしまった時の後悔を、もう忘れちゃったの。  恋をしたら僕のすべてがまともになると思っていたのに、何もうまくいかない。  他人に興味を持つ事はおろか、関わりたくないとさえ思っていた僕は、とにかく七海さんが離れて行ってしまう恐怖に怯えた。  七海さんを独り占めしたい───浅ましい執着心だけが見事に膨れ上がり、日毎強くなっている。 「七海さん………」  僕の想いが、このまま肌を伝って七海さんに届けばいけばいいのに…なんて無茶を思いながら、小さな体をこれでもかと抱き締め返す。  苦しかったのか呻かれてしまったけれど、僕は力を緩めなかった。  …どうすれば優しくなれるのかな。  「好き」の気持ちが募ると、何もしなくても、寛大で慈悲深い心の持ち主になれると信じていた。  教わらなくても、「優しい」が出来るようになる、と。  ───まるで逆だ。 心に余裕なんてまったくない。 許せない事が多過ぎて、本当に七海さんを閉じ込めてしまいそうになる。 「好きなんです、七海さん……僕は七海さんの事が好きで、好きで、たまらないんです…」  七海さんの左腕を取り、その手首に口付けた。  縛り上げた痕が僅かに痣となって残っているのを見ても、罪悪感はそれほど生まれない。  それどころか、これは僕が付けたものだ……などと、恐ろしい事を思ってしまったんだ。 「……分かってる。 でもSMの趣味があるなら先に言っといてよ。 驚くじゃん…」 「え、……え!? いや、僕にそういう趣味はないですよ…?」  罪悪感を感じなかった事に罪悪感を覚えていた僕の下で、七海さんが唇を尖らせる。  嫉妬にまみれた心の赴くまま、逃げられないよう縛ったあれはどうやらその性癖の類に入るらしい。  そんなつもりはなかった。  痛め付ける事が目的だったらそうなるのかもしれないけれど、僕は単に七海さんを独り占めしたかっただけだ。  「寂しかった」と可愛く膨れていた姿を見て、この子が僕から離れて行くなんてあってはならない事だと、繋ぎ止めておくしかないと、盲目に発揮されたエゴイズム。 「はぁっ? じゃあなんであんな…っ」 「うっ……七海さん…急に締めないで…、痛いです。 ただでさえ狭いのに…」 「あっ…ちょ、っ…いきなり…っ」  完全に油断していたところに、上体を起こそうとした七海さんの下腹部にキュッと力が入った。  それと同時に僕の性器を誘うように締め上げられ、途端に愛欲と律動を促される。  七海さんの内襞がぐにぐにと蠢き、思わず僕の片目が細まるほどキツい締め付けにあった。  じわじわと動いてみると、背中に回された細い腕が震えている。  こうして繋がるのは三度目だけど、七海さんがこんなにも僕を受け止めてくれるのは初めてだ。  震えながら、小さく甘い声を上げながら、背中に指跡を残す柔らかな疼痛。  手のひらで幼さの残る頬に触れると、擦り寄せてくるその愛おしさに、たちまち胸が苦しくなった。  度量の狭い最低な僕を受け入れてくれる、普通じゃない最高な七海さん。  あなたじゃないと、僕はダメなんだよ。  あなたしか、僕を受け入れきれないんだよ。  何度も突き上げながら、七海さんの華奢な体を抱き締めた。  密着する事で互いの汗と鼓動が混ざり合い、体ごと蕩けそうだった。  手首を拘束して憐憫の情をもよおした七海さんの悲痛の面持ちも素敵だったけれど、やっぱり、抱き締め返してくれる方がいい。  慣れない優しい抱擁は、僕をくすぐったい気持ちにさせてくれる。 「こうしていた方がいいですね。 七海さんのドキドキが僕に伝わってくる…」 「…んんっ…っ、……んっ…」 「………七海さん、声我慢してるの?」 「ん、っ? わ、かんな……っ…ん…!」  ───初めての時から思っていたけど、七海さんは控えめに啼く子なんだな…可愛い…。  過去に、大袈裟な喘ぎ声に萎えた事があったから、七海さんのこの照れと恥じらいを含んだ甘い嬌声は突き上げる度に全身がゾクゾクする。 「落ちないでくださいね、七海さん。 僕今日は我慢しませんから」 「…えっ…? セーブする、って…さっき…んぁ…っ…!」 「セーブするのは動き方です。 僕にSMの趣味はありませんが、厄介な癖はあるもので…」 「く、癖…っ!? エッチに癖とか、あるの…? やっ、ん…っ、」 「射精を限界まで我慢して、相手が落ちるまで動いちゃうんです。 強いて言うならそれが性癖でしょうか。 ……でも今日は我慢しません。 七海さんと一緒に…出したい」 「………………!!」  目を丸くした七海さんは、驚愕のあまり僕の背中に爪を立てた。

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