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 いつもの感覚を忘れないといけない。  込み上げてくる熱情を操る事なく弾けさせる術を、僕は忘れている。  いや……忘れているどころか、知らないかもしれない。  これまでは、何かを追い求めるかの如く射精までの我慢を自らに課して、狂いそうになる寸前の絶頂を楽しんだ。  まったくもって独りよがりだけれど、相手の顔色も、表情も、気持ちいいのかどうかさえも興味がなかった。  好きでもない、白目をむいて寝ている相手に盛る事ほど、空しくて滑稽な事はない。  だから、簡単に落ちないようにするために僕は媚薬を常備していたわけで、それが普通ではないと知った僕はこれが…初体験という事になる。  我慢しないで射精するって、どんな感じなのかな。 七海さんはどんな顔で、気持ちで、僕のものを受け止めてくれるんだろう。  どの瞬間の七海さんも、見逃したくない。  かつてないほど興奮していた僕は夢中で七海さんの唇を奪い、舌を絡ませて、誘惑が止まらない後孔をこれでもかと貫く。  ずちゅ、ずちゅ、と粘膜の擦れる音と、ベッドの軋む音、唾液が混ざるいやらしくも妖しいキスの音が生々しく寝室内に響いていた。 「んっ……ん、っ…っ、んっ……」 「七海さん、……可愛い」 「や、め…っ…かわい、く、…ない…っ」 「可愛いですよ。 僕の七海さんでいてください。 ずっと、ずっと、僕の傍に居てください」 「やっ…っ……待っ…、も、…ばかになる…っ!」 「七海さん、抱き締めて」  射精の昂ぶりを間近に感じた僕は、七海さんの体を包み込んでそうお願いした。  頼りなげな腕の感触に、腰を振りながらうつろな目元を覗き込む。  息つく間も与えないまま突き上げていると、次第に七海さんの瞳が遠くを見始めた。  …まずい。 我慢しているつもりはないのに、七海さんが落ちかけている。  このままだと、抱き締めてくれた腕がいつするりとベッドに沈むか分からない。  瞑りかけた瞳に口付けて、淫らな声を押し殺す七海さんの唇を舐めた。 「声、聞かせてください。 噛み締めちゃダメですよ」 「……っん…っ? …こえ…っ?」 「そうです」 「……そ、んなこと…言われても…っ! 恥ずかしい、から…っ」 「え…可愛い……。 恥ずかしいんですか? 恥ずかしい?」 「んんん…っっ、やっ、奥、グリグリ、するな…っ、んっ──!」 「どうしよう。 七海さんが可愛くて可愛くてたまらないんですけど」 「ちょっ、和彦…っ、んっ…! 落ち着け…! 休ませて、…っ」 「無理です」 「……………!?」  喘ぐのが恥ずかしいなんて、「可愛い」しかないよ。  七海さんは過去二回とも早々に落ちてしまったから、乱れ方がまだ分からないんだ。  限界まで辛抱して動き続ければ、七海さんが壊れて羞恥を飛ばす瞬間を見る事が出来るかもしれないと思うと、いつもの癖が湧き上がってしまう。  ───我慢したくないのに、我慢したくなる。  僕の耳元で聞こえる、七海さんの控えめな吐息がラストスパートを加速させた。  初な七海さんは経験がない分、誰の色にも染まっていなくてすごくいい。  人並みじゃない僕を受け入れてくれる七海さんを、僕の色で染められるなんて……尋常じゃないくらい興奮する。  固く張り詰めた性器と、絡み付くような内襞の熱い感触に律動を繰り返す度に恍惚とした。  抱き合う心地良さのあまり、精液を溢れさせ続ける七海さんの性器に触れてあげられなかった。  耳たぶを食んで肩口にキスを落とし、キツく吸い付いて鬱血の痕を残す。  すると、七海さんからお返しがきた。  苦しそうに呼吸をする最中、僕の肩口にわずかに歯を立ててきたんだ。  刹那、微かな甘い痺れが腰を震わせて、心がトクン…と跳ねた。  ───あ、………くる。 「……っ、…っ…っ…ん、んん───っ!」 「七海さん…、っ」  激しく抜き差ししていた性器が、七海さんの内で一際熱くなる。  初めての感覚だった。  三度、強めに挿抜して射精してしまっても、僕の欲は衰えない。  最奥を目指す僕の性器の先端は、放った精液が内で纏わりついている。  それを散らすように腰をゆるゆると動かすと、七海さんが両足で僕の悪戯な腰を挟んだ。 「ま、まだダメ!」 「………ダメですか」 「ダメ! …ちょっと休ませろ…!」 「………それって、休んだらもう一回してもいいって事ですよね」 「き、聞くなよ…っ、」  ポッと全身をピンクに染めて照れた七海さんに頬擦りして、額に浮いた汗を舐め取ると、もっと照れられた。 「七海さん……可愛い。 好きです。 好きです。 七海さん、好きです。 好きです」 「分かったってば! どうしたらいいか分かんなくなるから、あんまり言うな」  部屋の温度はとても快適なのに、僕達の体はこんなにも汗ばんで、熱い。  離れたくなくて七海さんをずっと抱き締めている僕の腕の中で、モゾモゾと小さな体は動いた。  想いが次から次へと溢れてきて、止まらない。 言葉だけじゃ伝えきれない。  手首の縛り痕と色白の肌に散った無数の紅い証が、愛の行為を物語っている。  七海さんの活きた息遣い、声が、はっきりと耳に飛び込んでくる事にこんなにも幸せを感じるだなんて、僕は知らなかった。 「嬉しい…。 七海さんが喋ってる…」 「はぁ?」 「だって起きてるじゃないですか。 僕、あの癖治さなきゃって思えたの初めてです……心のままにセックスするってこんなに気持ちいいんですね。 七海さんはどうでしたか? 気持ち良かったですか?」  溢れる想いが抑えきれない僕は、上気したふわふわなほっぺたに頬擦りを続けると、小さく頷いた気配がした。  七海さんの濡れそぼった腹部がそれをリアルに伝えてはいるけれど、その頷きが僕には何より重要だった。

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