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和彦はたまに、俺の言う事を思いっきり無視する。
でも、俺が本気で嫌がってたら和彦は聞いてくれる。 ……暴走してなければ。
「我慢しますよ。 明日はいいよって言ってくれたら、今日は我慢します。 触るだけにしておきます」
「触るだけで我慢出来なくなるの分かってんじゃん!」
「やっぱりそうですよね? 七海さんも我慢出来ないですよね?」
「おいっ、やっぱ俺はあっちで寝る! ここに居たら絶対奪われる!」
俺の股間辺りに膝を押し当ててくるのはやめてくれっ。
今日はダメだって言ってるじゃん!
明日は大事な初出勤なんだからしっかり睡眠取りたいって、理由もちゃんと言った。
そりゃあ……俺だって、気持ちいい事は好きだし、強引なのも実はそんなに嫌いじゃないよ?
何より、漫画を読みながら「こんなの嘘じゃん」って半笑いを浮かべてた、「毎晩の営み」が現実にあると知ってちょっと喜んでたのも事実だ。
そんなのも全部、和彦には見透かされていそうですごく気まずい。
いくら「ダメだ」って喚いて強がっても、ほっぺた真っ赤にしてたら何の信憑性もないよな……。
「七海さんが求めてくれたら、奪われた事になりません。 恥ずかしがらないで、求めていいんですよ?」
「求めない! マジで今日は寝ときたいんだ!」
「うーん……。 それでは、お互いの妥協案を探しましょう」
「そんなの探してないで寝ようよ! ……あっ、こら、っ……んっ……」
ガウン越しに半勃ちの性器を握られてピクッと体を揺らすと、すぐに唇が温かくなった。
ぬるりと舌を口腔内に滑り込ませて、じわじわと俺のと絡ませてくる和彦の巧みさに、鼻から抜ける声が抑えられない。
自覚が芽生える前から受け止めてるこのキスは、俺の脳内をすぐに痺れさせ、蕩けさせる。
何かの秘薬が体内にトクトクと流れ込んでくるみたいに、頭がボーッとして、全身から力が抜けていく。
「……キス一つですぐそんな……可愛い顔するじゃないですか。 ここもほら……反応していますよ。 求めてくれて嬉しいです」
「も、求めてない……! あっ……ダメだ、って……」
「可愛い……。 少し触れただけで、舐めてって誘ってくる……」
隙間から忍び込んできた手のひらが、そんなつもりはないとでも言いたげに胸元をさらりと撫でて、その指先が悪戯に乳首をこねくり回した。
ダイレクトな刺激に、ぷくっとその存在を示すかのように立ってしまったのが自分でも分かる。
指先で摘まれるとそれだけで背筋がビクビクと震えてしまうのに、鎖骨を愛撫していた唇と舌が乳首を捉えて、本格的な興奮を煽られた。
「んっ……っ、和彦……っ、我慢、我慢は……っ?」
「我慢しますよ。 今日は、挿れません」
「えっ? ほんと……っ? 我慢してくれる?」
「はい。 僕は聞き分けのいい、優しい大人ですから」
「自分で言うのはどうかと……っ、んぁっ……も、っ……舐めるの、やめ……っ」
「そうだな……そのかわり、……握ってもらおうかな……?」
「へっ……? 握る……?」
両手で和彦の髪を乱していると、一瞬では理解できない事を言われて動きが止まる。
視線がぶつかった和彦の瞳は、ハッキリと欲情した、優しくない狼のそれだった。
「握って、扱いてほしいな」
「し、扱、く……っ?」
「七海さん、僕とバニラセックスの経験をしましょう」
「ヒッ……っ! そ、そこ触るとよくない気がするけど……!」
和彦、俺が初心者だって事、忘れてない……?
気が付けばいつの間にか下着を下ろされていて、直にお尻を撫でられていた。
要らぬ事に、初めて洗浄してくれた時に俺が口走った台詞を覚えていた和彦は、「いいでしょ?」と小首を傾げていやらしく微笑んでくる。
「あ、ちょうどいいところにローションが。 これ使うとトロトロになって滑りがよくなりますから、気持ちいいかもしれませんね」
「何が、ちょうどいいところに、だ! 用意してただろ!」
「ふふっ……。 ネグリジェ脱ぎますか? ローション付いちゃうの嫌でしょう?」
「ネグリジェ言うな! それ忘れて!」
「ふふふ……っ。 あっ、ごめんなさい、指が……」
「ぅぁっ……! んっ……和彦っ、お前……っ」
油断してムッとしていた俺の孔に、都合よくそこにあったローションで濡れた指先が、ちゅぷ、と入ってきた。
笑って誤魔化してるけど、絶対絶対絶対、確信犯だろ……!
「頑張って腕伸ばして、僕の触って下さい。 ……緊張するなぁ……七海さんが握って扱いてくれるなんて……」
「そっ、そこまで出来ない……! 扱くのは……うまく出来ないと思う……っ」
「いいんですよ。 うまく出来なくて当然です。 上手だったら怒りますよ」
「……っ、……?」
「いつ、誰のものを扱いたんですか、って。 また妄想が膨らんでしまいます」
「やっ……やめ、っ……あ、っ……」
「七海さん、可愛い……。 気持ちいいんですか? 腰動いてる」
知らないよ、知らない……!
俺の体の事を、俺以上に詳しく知り始めた和彦の手に堕ちるのなんか、あっという間だった。
素肌に口付けてくる唇と、吸われてチリッと走る痛い快感と、ぐちゅぐちゅと内壁を蠢く二本の指に完全に翻弄された。
和彦にそそのかされても、立派な性器を握らされてうっとりしちゃっても、俺から求めちゃダメだ。
明日は初めての職場で初めての仕事をするんだろ、エッチしてる場合じゃないんだろ。
流されるな。 バニラセックスなんて、和彦には無理だ。
頭ではそう、分かってた。
「───か、……和、彦……っ、挿れて……っ、もう、挿れて……! 起きてるから、俺……ちゃんと、和彦のことギュッてしとく、から……っ! はやく、挿れて……!」
無理な態勢で和彦のものを弱々しく扱いていた俺は、泣きながらせがんでいた。
俺の両足が、待ち構えるようにいやらしく開く。
うっそりと笑う和彦の魂胆にまんまと嵌ってしまったんだと、それに気付いた時にはもう───遅かった。
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