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 この両親は食わせ物だと思う。  きっと何か理由があるはずなんだ。  表向きは楽観的で天真爛漫な風だけど、そうと見せかけて油断させ、ほんとはきちんと物事の芯を注意深く見て動く、素人目にも経営者向きな二人。  録音した中で占部のお父さんが、分かったような口で「先義後利も程々に」とか何とか言ってた。   でもそれは、読めない両親の意図により、足元をすくわれるのはもしかすると占部のお父さんの方だったりして……。 「和彦、お父さんはなぜ酒も飲めない早いうちからパーティーだの食事会だのに和彦を連れ出していたと思う?」  能面メイドさん含む四人のメイドさん達が、手早く食器を片付けてコーヒーを運んで来た。  俺達だけの空間になってすぐ、友彦お父さんが和彦に向かってこの日一番真剣な眼差しを向ける。  もっと早くそのモードに入ってほしかった。  テーブルの下で繋がれた和彦の手に、わずかな緊張が走る。 「それは……将来継ぐ者として顔を覚えてもらうため、……」 「ん〜!  それは正解のようで正解ではないな。  不正解にしておこう」 「……はっきり言ってください。  お父さんのお話はいつも回りくどい」 「そんな言い方はないわよ、和彦。お父さんもお母さんも考えがあって……」 「まぁまぁ、結子、ぷっくり和彦の成長が見込めて嬉しいじゃないか。  そんなツンとした顔は結子には似合わないぞ」 「あらま、やだ。  怒った顔なんてしていたら幸せが逃げちゃう!」 「そうだぞ!  結子は美しい笑顔だけを浮かべていておくれ」  ───ぷっくり和彦……。  それはもしかして過去の和彦の姿を言ってるのか……?  って、和彦……めちゃくちゃ嫌そうに顔を歪めちゃってるじゃん。  誰だってそんなあだ名は嫌だ。  まさにその見た目で受けた傷が和彦の性格の根底となってるのに、いつまでも両親がそのあだ名を使っちゃってるから、和彦が「合わない」と思い続けてしまうんだよ。  和彦そっちのけでイチャつくのもそうだ。  今でもこの調子なんだから、若い頃はもっとベタベタしてたんじゃないの。  一人っ子である和彦をそっちのけで。 「七海さんの前でその呼び方はやめて下さい。  ……というより、二度と口に出さないで頂きたい」 「すまんすまん!  お父さんから見れば我が子はいつまで経っても小さな子どものままなんだ。  仕方ないだろう?  あの頃の和彦は可愛かったのなんの……」 「お父さん」  脱線が甚だしいお父さんを制した和彦の声色には、隠しきれない強い拒絶が滲んでいた。  横顔を覗くと唇を引き結んだ不機嫌そのものな和彦が居て、思わず息を呑む。  初めて見る険しい顔付きに、不覚にも見惚れてしまった。  そうそう、その顔。  まさしく「見た目だけスパダリ」。  俺の前だと目元と口元がふにゃっと蕩けてるから、こうやってキリッとした男らしい表情をされると何ていうか……キスしたいって思う。  ───って、何考えてるんだ。  今大事な話をしてる最中だろ。  目の前のイチャイチャ夫婦にあてられてどうするんだよ。  しっかりしろ、俺! 「和彦もそんなに怖い顔をするんじゃない。  正解を教えてあげるから」 「……えぇ、ぜひ」 「七海君、証拠とやらをここに持ってきてもらえるかな」 「あ、っ、はい!」  自分を叱咤した直後、友彦お父さんにそう言われて俺はポケットの中からスマホを取り出した。  扱いにくいけど、和彦が繋いでる左手を離してくれなかったから、スマホをテーブルに置いてさっき録音した音声を呼び出す。 「はい、これです」 「ふむ。  ありがとう」 「いえ……」  友彦お父さんさんは、俺のスマホを操作して例の会話を再生すると、それほど切羽詰まった様子を見せないまま黙って聞いていた。  隣の結子お母さんも同様に、コーヒーカップを口元へ運びながらも聞き耳を立てている。  ……占部のお父さんが社内でこんな悪事を働いているなんて、占部が知ったらどう思うんだろ。  セクハラ、パワハラ、不正……こんなもの許されるはずはなくて、だからと言って和彦は占部とは切り離してこの件を収めなくちゃならない。  会社を取ると言ったものの、和彦にとっては貴重な、これからもまだまだ付き合いがあったであろう占部にこの事実を突き付けるなんてあまりにも酷だ。  何やってんだよ、占部のお父さんは……。  俺は、未だ難しい表情をしている和彦の横顔を見詰めた。  俺では占部の代わりにはなれない。  友人、という立ち位置にいられない俺は、和彦が占部にこの事をどう説明し、これからどうしていくのかとても心配だった。 「遡る事四年前。  密告があった」 「密告、ですか……?」  俺にスマホを返してきた友彦お父さんが、「ありがとう」ともう一度俺の目を見て言う。  そして、和彦を見据えて「社長」の顔になった。  ……やっとだ。

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