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序章 皆を集めてさてと言い 1

 「否定を続けたいのなら、響子お嬢様を刺殺した際に抵抗したお嬢様に負わされたであろう引っかき傷が、左腕に無いことを見せてください?俊夫さん」  続けざまに酸鼻を極めた怪事件に見舞われた名家の屋敷の広間で、犯人の名が告げられた。  昨日、憔悴した当主の越前坂鷹ノ丞からの依頼を受けてやって来た来客は、スーツを着こなした、篠生と名乗るいかにも怜悧な男前と、彼に付き添う質素な和服姿の、肩にかかる黒髪が美しい両性具有の如き見目の麗人。  一族や使用人から話を聞き、屋敷内を調査するのを遠巻きに観察した関係者は、この男前が快刀乱麻を断つが如き推理をしてくれるのだろうと想像した。だが実際は。 「ゆ、許せなかったんです…!この家の養子だった私の婚約者を玩び、首を吊るまで追い詰めて植物状態にしたあいつらが、どうしても…!だから同じように首を…」  泣き崩れた分家の俊夫は警察官に連行されて行く。  呆けた一同から代表し、老執事がおずおずといった様子で、推理を終えた彼に問いかけた。 「あの………貴方は…」 「ああ、失礼。ご挨拶が遅れました。僕は篠生朝(しのおあした)という者です。こちらは助手で義弟の篠生流吾(しのおりゅうご)です」  美人探偵の推理中、傍らに控えていた男前助手が無言で頭を下げた。  知人の紹介を頼って依頼をした当主すら、男前の側に付き添っている美人の方は助手か何かだろうと、名乗ってもいなかったのを気にも留めぬ程度に軽んじていた。関係者はざわつき、特に、そうとは知らず軽い口で雑談がてら矮小な対抗心から、男前に話していなかった家の内情を暴露しつつ、探偵を口説いた当主の放蕩息子などは蒼くなっていた。  そんな一同に、「一度も僕が助手だと、義弟が探偵だとは肯定しておりませんが?問われもしませんでしたけれども」と塵ほども悪びれず、してやったりといった表情を浮かべた麗しの探偵は小首を傾げた。  かくして性悪令嬢、狡猾使用人頭、加虐趣味下男の3人の死者を出した越前坂家連続首吊事件の謎は解かれた。  正体を知って尚、探偵に擦寄ろうとする放蕩息子を、助手が眼光で制圧すると、この世でたった一人にしか許していない呼び名が、彼の耳をくすぐる。 「(りゅう)、行こう?」  数回瞬きしながら言うその表情が昔と変わらないことに、助手__流吾の独占欲が満たされるのが常だった。

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