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序章 皆を集めてさてと言い 2

 事務所で抱くのは仕事で不本意に妬心を掻き立てられた時。 「昼間から、しかもここで…」 「鍵はかけましたが」 「明るい」 「それは我慢して下さい」  椅子に腰掛けた膝の上に座らせた義兄の詰る声は、拒絶ではない。 「(りゅう)」  その証拠に、肌を這う手を咎めるでもなく、すでに息は乱れ始めている。着物の前はほとんど開いて真っ白な胸から腹部までが曝されている。 「あ」  下腹に触れた途端に反射で逃げる腰へ、やや強引に腕を回し、そのまま引き寄せて口づけてしまう。唇を食むほど、舌を絡めるほど、淡く甘い。 愛撫に蕩ける目、焦らすと足りなそうに腰を揺らす姿。  全て焼き付けて、散々浴びたであろう薄汚い視線を上書きした。 「あのどら息子に近づくことは無かったでしょう」 「仕事だから、…早く済んだでしょう?」 「悪い人だ」 「わるい子が、そう言うの?」  唇に触れる指を、義兄は軽く噛んだ。同時に、スラックスの前立てをゆっくり下ろしていく。白魚の如き指が淫蕩な動きをしだす。 「わるい子にしたのはあんただろう」  どうしてくれますかと耳朶に吹きこめば、もう言葉にするのがもどかしそうに縋りつかれた。 「じゃあどうにでも、…して」  あとはもう言葉にならない。するのも煩わしい。  抱くといつも、初めて兄さんと呼んだ日から、ずいぶんと遠くまで来たように感じる。  だからといって、後悔などしていない己は業が深いと呆れ、吐く息は快楽の吐息か諦観のため息かどうか、分からない。 「流…」  ぎゅっと抱き寄せられたのは汗が伝う紅潮した胸元。何度もこの薄い胸に頭を抱かれ、その都度、思慕に心を締め付けられた。  出会ってからずっと、持て余しつつあった欲が叶った今も尚、募る感情のまま、彼の背が撓るほど抱いた。

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