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第一章 楽しい日曜日 1
最初に兄さんと呼んだ日から、彼の存在が大きな位置をしめている。
その日最初に見たのは、長いまつ毛にふちどられた優しい目だった。
「流、おはよう」
カーテンの隙間から差し込んだ日差しに照らされた顔は、つやつやした長い黒髪もあいまって、いつにも増して麗しい。同じ布団に入ってるため、あまりに近いが。
「…おはようございます」
温もりを無くしてるであろう隣の布団に目をやりながら、しぶしぶ声をしぼり出す。
「また、」
「さむいから」
言いきる前にあっさり頷かれた。そう言うわりには、思い切りよく布団から抜け出た義兄をぼんやり目で追った。
襖を少し開けて振り返った彼は笑う。
「さきに顔洗うよ」
「はい」
朝食の片付けが終わると、柱時計が8時を知らせる。
「今日は何曜日だっけ」
「日曜日です」
知ってるくせにちゃぶ台に両腕を載せて、わくわくと聞いてくる声にそっけなく答えれば、ぴょんとはねるように抱き締められた。目のやり場に困って彼の着物に描かれた小花に視線を向けるようにする。
「流、学校休みだね」
「ええ」
自分より2歳上、9歳の彼は学校に行っていない。
小動物や花など、かわいいものが好きだと言う義兄は、男らしくあれと教えられる教育が嫌なのだという。代わりに家庭教師をつけてもらい、平日は家で勉強や手伝いをするなどして過ごすことが多い。
「日曜日は流がいるから好き」
「他の曜日でもいますよ」
「ずっとはいない」
「ずっとじゃなきゃ、だめなんですか」
「…本当はそう」
かわいらしいものを好み、それ故に女物でも身につけ、突然出来た義理の弟を“気に入ってる”から構い、己の好きなものを否定する学校は好きじゃない。
東京に来るまで山奥の里に住んでいたという彼が、身につけた誰の咎めも気にしない自由さは、なかなか得難いものだ。それでいて、傍若無人とも少し違う。踏み込んでは来ないし、わりと細やかだ。
つまるところ、彼の側の居心地は、いい。
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