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第44話 「あの日、君とここで」

さよならした。 春の日。 誰もいない遊歩道。 桜が舞う夕焼けの中で。 おかしいから。 異常だから。 だから離れた。 もう二度と戻らない。 もう二度と戻れない。 好きで好きでたまらないのに。 好きだから。 だから離した。 もうこの手は届かない。 もうこの手は伸ばせない。 声が枯れるほど泣いた。 声が枯れるほど叫んだ。 どうして。 どうして俺はあいつだったのか。 どうして俺は俺なのか。 あいつじゃなかったら。 ゙俺゙じゃなかったら。 男じゃなかったら。 そしたら普通で。 幸せで。 もしかしたら永遠を。 そんなものを手に入れていたかもしれないのに。 ただ好きなだけだった。 ただ好きだっただけ。 大好きで大切で。 一番大事にしたかった人。 だから離した。 だから。 あの日、君とここで。 さよなら、した。

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