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第129話
説明するのも面倒だが、仕方がない。
「本庁に戻るなとは言っていません。福岡さんの部署に戻ることに反対しているんです」自分で思っていたよりも少し口調が強くなる。
東城は首を少し傾げた。広瀬が反対する理由がよくわからないのかもしれない。
今度は彼が、自分の目を見ている。
その視線をしっかりと受け止めて、広瀬は言った。
「俺の父のノートを使って、誰がなにを企んでいるのかわかりません。関わらないほうがいいです。そのノートは欲しい人間が持って、好きにすればいいんです。何に利用しようがかまわないです。いっそ焼き捨てたっていい」
言い募ろうとした広瀬に東城は聞いてくる。
「大垣が俺の家に来たのはなんでだと思う?同じタイミングだ。大垣はNノートを探している一味の一人、か首謀者だ。そうなると、俺が福岡さんのところにいる方が、いい面もあるよ」
広瀬は首を横に振った。
「大垣さんは、簡単な人じゃない」
「お前がそういうなら、そうなのかもな。じゃあ、大垣がNノートを渡せって言ってきたら、渡すさ。今のところ大垣が何を思ってこの家の周りに近づいてきているのかわからないんだからな」
それから、手を伸ばして、頬に触れて、さらに首の後ろに回した。
「心配するなよ。大丈夫だから」
そう言って彼は顔を寄せてきた。唇が合わせられる。彼の息が甘い。
長いキスの後で、「大丈夫」と彼は耳にささやいた。
慎重にするから、お前が思うようなことは起きない。やばくなったらいつでも手を引くさ。
東城は、戻ると決めたのだ。広瀬が何と言おうと彼は自分の決断を変えないだろう。
彼は広瀬と同じで頑固なのだ。
広瀬は目を閉じた。まぶたの上から彼が優しくキスを重ねてくる。熱い手が首を腕を背中たどっていく。
彼の体温を感じながら、この先の未来はどうなるのだろうと広瀬は思った。
不安定でゆらいでいる。また、この全てを失ってしまうのでは。
不安を口に出したのでもないのに、東城が、「そんなこと考えるなよ」と言った。
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