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「・・・・・・・・」 でも、なんとなく気が付いていた。気が付いていて、ずっと気づかないふりをしていた。 「・・・僕は、離れたりしない。離れようとも思わない」 けれど、圭一を見ていると時々不安になる。 自分に対して何かを言いかけていて、でもそれを告げる前に彼は止めてしまう。 『どうして?言えばいいじゃない?』 でも、どうしても、咲里自身の口からは言いだせない。 言い出して、もしこの関係が壊れてしまったら? 彼はきっと自分のもとを去るだろう。 そんなことになりでもしたら、きっと僕は耐えられない。 足枷を嵌めて閉じ込めようものなら、一瞬にして彼の、彼との今までが消える。 そう思うから、咲里は伝えたい感情を飲み込んで、喉の奥で溶かして笑顔に変えてきたのだ。 『何を言われても僕は君から離れたりしない。なのに、どうしてそんな不安そうな表情を見せるの?』 きっと彼は自分で気づいていないだけだ。 不安でどうしようもないと言わんばかりの表情で、僕を見ていることを。 何度も息を吸い吐いた。でも、どれだけ吐いても、こればかりはきっと解決しない。 「・・・・・・」 寝ころんで、そっと圭一の側に寄り添ってみる。 じんわりと温かい熱が肌を伝って、その度に心地良い心音が腕へと届いた。 『・・・好きだよ・・きっと君以上に、僕は君の事が好きだ・・』 呟いた声は吐息に消えて。咲里も深く息を吸い吐くと、ゆっくりと瞳を閉じた。 その先で、夢を見た。 始発に飛び乗ってガタゴトと走る北近畿タンゴ鉄道から見える景色は未だ少し薄暗く、時折 張り付いてくる窓ガラスの雪をジッと眺めながら、圭一はずっと視線を窓に向けている。 五時よりも早い早朝の電車の中は、乗客の数もまばらで人の会話も聞こえて来ない。 足元をゆっくりと温めてくれるヒーターのありがたさを肌に感じながら、彼は本日何度目かの欠伸を繰り返していた。 「寝てていいよ」 隣で静かに文庫本に目を落とす咲里の声は、いつもどこか優しくて。 その心地良さに安堵しながら、圭一の瞼がゆっくりと重くなった。 「・・・・・・・・」 目を開けた先に見る景色は、どんな美しさを秘めているのだろう? 『その景色を、一緒にまた見ることが出来るだろうか?』 白昼夢に似た感覚の中で、停車間近に流れるアナウンスを聞きながら――・・。

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