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第34話

「じゃあ~、会社辞める?」  慶は、まるで買い物でも選ぶかのように、気軽に言った。 「会社辞めて、自転車買って。俺と一緒に、日本一周する?」  その手があったか!  秀一は、何の未練もなく勤めを辞める決心をした。  係長が、いつか健康を取り戻して戻ってくるかと思えば、何の魅力も感じない。 「慶さん」 「ん?」 「自転車選ぶの、手伝ってもらえますか?」  慶は、晴れやかに微笑んだ。 「もちろん、喜んで!」 「ありがとうございます!」  抱き合い、ガレージでキスをした。  風の匂いはもう冬になっていたが、二人の心は夏を迎えた。

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