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第33話

 病院から帰ると、ガレージが開いている。  見ると、慶が久々に自転車の手入れをしていた。 「サイクリングにでも、行くんですか?」 「いや。そろそろ、ここを発とうかと思って」 「えっ?」  問いかけた秀一の声は、自分の物ではないように耳へ響いた。  慶は手を休めることなく、ただ淡々と話す。 「すっかりお世話になっちゃったし、秀一くんも元気になったし」 「元気じゃないです」 「でも係長はいないし、鬱病はもう」 「たった今、元気じゃなくなりました!」  行かないで、と秀一は慶に抱き着いた。  抱きしめて、涙をこぼした。 「行かないでください。僕、もう慶さんがいないとダメなんです」 「秀一くん」  引き裂かれると、死んでしまう。  そう追い詰められるまで、秀一は慶を愛してしまっていた。

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