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第15話
『愛都、今日も叶江君会いに来てくれたよ!』
毎日の日課である宵人との電話越しの会話。
その声音は明るく幸せそうな雰囲気が伝わってきた。
「そうなんだ。よかったな、一時はどうなるかと思ったけど今じゃその心配もいらないな」
『うん!僕、幸せだよ...すごくね』
「そっか、お前が幸せだと俺もなんか嬉しいよ」
宵人との電話は俺の冷えた心を温めてくれる。いつまでも長くしていたい。
しかしそれもあの時間に近づくことによって終わりを告げる。
あの時間...それは俺にとって不幸でありながらも、同時に宵人にとっての幸せをつくることのできる唯一の時間。
「それじゃあ、そろそろ切るな。明日も電話するから」
『りょうかい、また明日ね』
その言葉が終わることによって聞こえる機械音。そしてそのタイミングを狙ったかのように鳴り出す携帯電話。
あぁ、今日もだ。今日も。もう二度と聞きたくないと断言できるほど嫌いなあいつからの電話。
「...もしもし」
『遅い。出るの遅すぎ。俺からの電話は3コール以内に出てよ』
今日もまたあいつ...叶江からの電話がきたと分かれば、小さな抵抗としてしばらく経ってから電話に出る。
叶江からの電話なんて出たくないんだ。だからこっちからすれば出ただけでも感謝してほしいくらいだ
しかしあいつはそんな小さな抵抗でさえ許さず、グチグチと文句を言ってくる。
『返事は、』
「...わかった」
そう、俺が言えば満足したのかあいつは鼻で笑い、次からそうしろよときつく言いつけてくる。
俺は叶江の犬。そして叶江は俺の飼い主。犬が飼い主の言いつけを守るのは当たり前のことだ。
わかっている、そんなことは。それがあいつとの約束でもあるのだから。
しかしどれだけ時間が経とうと、その事実は俺を酷く憂鬱にさせる。
「今日は何。いつもみたいにヤればいいのか」
『あははッ、冷たい犬だな。もっと愛想良くすればいいのに』
「いいから早く答えろ。お前との電話なんて早く切りたいんだ」
クスクスと笑う奴の声にひどくイラつきを感じる。早く要件を聞いて電話を切ってしまいたい。
自然と眉間に皺が入り、歯を強く噛みしめる。
『本当、あからさまな態度。...今、外にいる。お前ん家の玄関前』
「...はっ?」
『だから早く開けてよ。寒いんだよね』
ウソだろ、と思いながらも..いや、願いながらも携帯を耳に付けたまま小走りで玄関の方へ行き、ドアをゆっくりと開ける。
「...ぅあ、」
瞬間、するりと手が伸びてきて肩を掴まれると引き寄せられた。
「あーーー、あったかい。もうそろ夏だっていうのに夜は寒いの何のって」
慣れた香水の香りに抱き締められる俺の体は包まれる。
持っていた携帯は引き寄せられたときに手から滑り落ち、音を立てて地面にぶつかった。
「っ!はな、せっ」
「耳元でうるさいよ」
肩口に顔をうめられ、ヒヤリとした叶江の体温を感じ一瞬ビクつく。
何故だか抱き締められたまま動くこともできず、俺はされるがまま固まっていた。
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