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第60話
「わぁ、すごい!!お店のものみたいだね!」
「そんな、褒めすぎだよ」
今しがたできた料理の数々を机に並べていった。
色合いも豊かでいい匂いが部屋中に広がる。
でも、きっとこれは味気無いものじゃないだろうか。
...心も何もこもっていない料理なんだから。
――コンコンコン、
「ん?誰か来たみたい。俺出てくるから沙原君は先に食べててよ」
「ありがとう...あ、でも待って!多分和史たちかも。やっぱり僕が――」
「いいよいいよ。大丈夫だから」
香月達が来るだろうことは予想していたことだ。
沙原は食堂でのことを気にしているのだろうが、俺にとってそれはいらない心配だ。
「やぁ、こんにちは。いや、こんばんは、かな。沙原君なら中にいるよ」
ガチャリと扉を開けるとそこには綾西を抜かした香月と永妻の姿があった。
2人は扉を開けた俺の姿を見て、途端に不愉快そうに表情を歪めた。あまり俺の存在に驚かないあたり、俺と沙原が同室であることは周知していたらしい。
「邪魔だ」
ガッ、と俺の肩を押して香月が中に入って行き、その後に続いて永妻が中へ入って行く。
「なんであんたなんかが弥生の同室者に...っ」
2人が入り、扉を閉めたところで、苛立ちの込められた視線を向けられる。
永妻は1人立ち止まって俺のことを睨んできていた。
「弥生になんかしたら許さないんだから」
そしてそう言われた瞬間――俺は、ニコリと笑った表情のまま固まってしまった。
「あぁ、分かってるよ。その気持ち、すごく理解してるから...。大切な人を傷つける奴なんて許せないよな、そんなことをする奴らなんて...」
俺の纏う空気が淀んでいくのを感じたのか、永妻はジリ、と一歩後ろへ下がった。
そんな永妻の華奢な腕を骨が軋むほど強く掴んだ。ヒッ、と永妻は肩をビクつかせ俺のことを見てくる。
「俺も...許さねぇから」
「...っ」
耳元でそう囁いた瞬間永妻は青ざめた顔をして、ドンと俺の胸を押すと足早に沙原たちがいる方へと逃げるように歩いて行った。
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