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第80話
『愛都...さみしいよ、愛都』
『...ぁ、よい...と、宵人...なのか、』
『愛都...愛都...っ、僕を1人にしないで。見捨てないで...』
ふと気がつけば、俺は真っ白な部屋の中に1人でいた。周りからは宵人の声が響くようにして聞こえてくる。
だがどこを見ても宵人の姿はなく、白い壁と天井のみが視界に入るばかりだった。
『宵人、どこにいるんだ...なぁ、こっちに来てくれよ!宵人...っ、』
『愛都愛都愛都...っ、苦しいんだ、助けて...――――息が上手く、吸えない...』
『 宵人っ!!』
急にすぐ後ろから声が聞こえ、俺は慌てて振り向いた。するとこちらに背を向けて横たわる宵人の姿を発見した。
すぐに俺は宵人の元へと駆け寄り、抱きかかえる。
...その首元には縄で絞められたような苦しげな痕が残っていた。
『宵人、俺だ!もう大丈夫だよ、俺がいるから...ずっと、一緒にいるから』
瞼を閉じ、起きようとしない宵人の頬を優しく撫ぜる...慈しむように、ゆっくりと。
―その瞬間、宵人は瞼をバチリと開け、顔を俺の方へと向けてきた。
『...っ!?』
その目を見て、俺は悲鳴をあげそうになった。
いや...正しくは目があったであろう場所を見て、か。
宵人には...目がなかった。2つの“穴”には暗い闇が広がっているだけだった。
『僕は、ただ幸せになりたかった...』
ゆっくりと動く宵人の唇の動きを俺は目で追う。
『愛都のせいだ...全て愛都のせいで』
低音になる声音。
その言葉と同時に白かった部屋は徐々に黒く染まっていき、抱きかかえていたはずの宵人は消え去ってしまった。
『あ゛...ぁ、俺の...せい、』
黒目が安定せず、宵人の言葉を考えれば考えるほど、俺は体の感覚を失っていった。
そして全てが黒く染まった時、俺は一粒の涙を流した。
―
――
―――
「...なと...愛都君、起きて。探したよ、3時間目あたりからどっかに行っちゃってたから。まさか屋上にいるなんて思わなかったよ」
「...沙原、君?」
肩を揺らされ、うっすらと瞼を開ければ明るい日射しが視界いっぱいに入ってきた。
目の前には柔らかな笑みを浮かべた沙原が座っている。
さっきのは、夢...か。
俺は静かに溜息をした。
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