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第106話
「愛都君、今日もお昼は食堂で食べないの?」
「うーん、そうだね。あまり騒がしいところは好きじゃないから。多分これからも大抵は教室かどこかべつの静かなところで過ごすつもり。ごめんね、いつも誘ってくれてるのに」
「う、ううん!大丈夫だよ、気にしないで。それに昼が無理でも寮に帰ってくればずっと愛都君といれるし、それだけで満足!」
「本当?そういってもらえるとすごく嬉しいな。俺も沙原君と一緒なの居心地が良くて...」
頬を赤く染める沙原に愛都は笑みを向ける。そうすれば沙原は一気に耳まで赤くした。
「それじゃあ俺、今日日直で朝早いからそろそろ行くね」
「えっ、あ、そうなんだ。じゃあ...僕も愛都君に合わせてもう出ようかな」
「でも沙原君、香月君と永妻君が迎えに来るんでしょ?待ってなくていいの?」
すると沙原は「...そうだよね」と俺の言葉に対して残念そうな口調になる。
さすがの沙原もまだ良心が残っているようであまり香月達を無碍に扱っていないようだった。
―俺と深く関わっていないうちは。
それを証拠に、沙原は愛都との距離が縮まる綾西に対して嫉妬し、態度も豹変した。
恋は盲目、という言葉があるがまさにそれは沙原にお似合いの言葉だった。
自分の恋路の邪魔をする人間は親しくしていたものであろうと許さない。
周りから天使のような容姿と性格だ、と褒め称えられている沙原はそんな人間臭い一面を持っている。
所詮、内面も全て完璧な人間なんてこの世にはいないんだ。誰もが穢れた感情を持っている。
―まぁ、そんな内面のおかげで俺は沙原を思いのまま動かすことができて、色々と利用しやすいという利点があるんだけども。
「それじゃあ、いってくるね」
鞄を肩にかけ、靴を履くと俺は軽く振りむき沙原に手を振る。
そして振り返す沙原を見て前を向いた時“コンコン”とドアをノックする音が玄関に響いた。
「あっ!和史たちもう迎えに来てくれたのかな」
その音に沙原は顔を輝かせ、俺は心の中で悪態を突く。
せっかく久々に心地よく1人で登校できると思ったのに、これではまたいつものように4人で登校させられてしまう。
「今開けるねー」と沙原は嬉しそうにドアを開ける。
「 ...え? 」
しかし、ドアを開けた沙原の口からは歓喜の声ではなく、僅かに嫌悪が混じる疑問の声が上がる。
「...おはよう、愛都」
香月達がいるであろうと予測したそこには、
1人、ぽつんと佇む綾西の姿があった。
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