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第122話

 夕食も終わり、沙原に捕まらないよう俺と綾西は早々と部屋に戻った。  待ち合わせ時間は夜の10時。思惑通りにいきすぎて笑いそうになった。  テレビをつけ、ソファに座るが頭の中は先程の香月とのやり取りばかりが占めていた。  ちょっとウブなフリをしてやれば分かりやすいほど俺に発情していた。あの様子だと夜に会ったら何をされるかぐらい、簡単に予想できた。  だから俺はここに戻るまでの間にそのことを綾西に伝えたのだが...  それを聞いた時から当然のことながら、ただでさえ悪かった綾西の機嫌はさらに悪化した。  「...狭い」  ずっと黙ったままの綾西はむくれた顔のまま愛都とソファの間に入り無理に座るとそのまま抱きしめてくる。  その狭さが嫌で離れようと立ち上がれば強い力で引き戻され、今度は膝の上に座らされる。  ふてくされてる癖にひっついてこようとする綾西への応対は非常に面倒くさい。  フォローする気も、慰める気もなかった愛都は変に抵抗することもなくその状態のままテレビを見続けた。  そうして約束の時間が近づいた時、愛都はロビーに行くために立ち上がろうとした。  「 離せ 」  しかし綾西は拘束する手を緩めようとはせず、肩に顔を埋めたまま動こうとはしない。  「俺の言うことが聞けないのか」  「......嫌。」  いつになく強情なのはこれから香月とすることが何なのか分かっているからだろう。  だがそんな独占欲も愛都にとっては邪魔なだけだった。早くしないと待ち合わせの時間になってしまう。  「 綾西 」  そう、強い口調で名前を呼べば、ついに綾西は肩をビクつかせて拘束する手の力を緩めた。    緩まっている拘束を手で払い後ろから聞こえる、鼻をすする音を無視して立ち上がると、玄関へと向かった。  悔しさと悲しみで涙を流す綾西の姿は容易に想像できた。  本当は行かせたくない。けれど捨てられるのが怖くて強くものを言えない。  綾西が何を考えているのかも、手に取るように分かる。  「まな、と...っ、」  「お前の傷ついた姿は悪くないな」  気まぐれに綾西の元へと戻り、ソファの背もたれの方から手を伸ばすと顎に手を添えて上を向かせる。  そしてぺロ、と流れる涙を舐めとり薄く開いていた綾西の唇を啄ばんだ。  「香月の件で俺はあと何回この顔を見ることができるんだろうな」  見開く瞳。  俺を一心に見つめる瞳。  そうして微笑んでやれば綾西はまた一粒の涙をその瞳から零れさせた。

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