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第127話
「愛都君!これ見て!すごくない?」
「うん。絵が細かくてきれい」
沙原に腕を引っ張られ、目の前に出されるものに素直な感想を告げる。
見学旅行2日目。今日はホテルの近くの街場で自由行動ができた。色々と歩きまわり土産物屋に来たのだが、そこは珍しいものが多くあり、愛都と綾西、そして沙原はもちろんのこと永妻と香月もフラフラと店内を歩いては足を止め、置物やガラス品などを鑑賞していた。
といっても、愛都の場合沙原に連れまわされている、と言った方が正しいが。
昨日の夜、愛都が香月といた時、ちょうど沙原が部屋に来ていたらしかった。そこで遅くまで待っていたらしいのだが、堪えられなくなった永妻に半ば引きずられるようにして部屋に帰ったと、綾西から朝に話を聞いた。
そのせいか、今日会ったときからやけに沙原は愛都にべたべたとくっつき、いつも以上に甘えてきた。
それは少し異常と言ってもいいほどで、いつもは何だかんだ永妻と一緒にいて、永妻と行動する沙原は永妻に何を言われても生返事しかせず、愛都の隣に居続けるほどだった。
そのこともあり先程から永妻はその女のような愛らしい顔を歪めてばかりいた。土産品を見ている今も、眉間には皺が入り、口角は下がっていて不機嫌なオーラを隠さずに出していた。
「次はあっち見よ!」
それでも沙原は気にしていないのか、それとも気づいていないのか、相変わらず愛都を連れ回す。
そして永妻の横を通った時、永妻は愛都を睨み、舌打ちした。
― はっ。すごい嫌悪。永妻もいい気味だ。
「香月君、何を見てるの?」
「...別に」
沙原が別のものに惹きつけられている隙にすぐ近くにいた香月の肩を叩き、顔を覗き込む。
するとあからさまに香月は顔を背け、視界から愛都を消した。
「香月君?」
「お前飽きないのか、見学。朝からずっと弥生に連れ回されて」
「あぁ~。俺は別に飽きないよ。でも―――」
「確かに香月君と一緒に回れないのは残念かもしれない」そう香月の耳元で呟けば、じとり、と香月は横目で愛都のことを見てきた。
「そうだ。ちょっとトイレで休憩しない?俺も後から行くから先に行っててよ」
ポンと肩をもう一度叩き、意味ありげに笑めば香月はどこか不機嫌そうに下げていた口角を上げて笑んだ。そして何も言わずにトイレの方へと歩いていった。
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