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第129話

 「はぁ、はっ...あっ、香月...く、」  個室トイレの中。観光地のど真ん中で、いつ人が来てもおかしくないこの場所には2人分の荒い息遣いがひしめき合う。 便座の蓋の上に腰を下ろす愛都に覆いかぶさるようにして香月が影をつくる。  香月の手には2人分の勃起した性器が握られており、それは上下して忙しなく扱かれていた。  互いの熱い、脈打つものが締め付けられるようにして密着し合い、酷く気持ちがよかった。  「...ぅッ、あ...イク...こうづき...くっ、」  「う...くッ、」  香月が空いている方の手も使い、亀頭を弄ると先端を爪で抉るようにされ... その瞬間、愛都は香月とほぼ同時に吐精した。  さすがにここでは本番までやるのは無理だ、ということもありこのような流れになった。  昨日もヤっておいて何だが、香月の手元にある、白く濁った液体を見て随分と自身の体の方は元気なものだ、と漠然と思った。  「愛都...」  「ふっ...ぅ、んん...ッ、」  近づくのは香月の唇。湿ったその唇は愛都の僅かに開いた唇と重なり、深く舌は絡まり合う。 下は吸われ、歯列はなぞられ、淫らな水音で耳まで犯される。  しつこいほどに続く口づけに何度か意識が遠のく。不快感は募るが、同じくらいに心地よさも体の中を支配する。  抱きしめられる体。頭の後ろを手で抑えつけられ、口づけはより深いものへと変わってゆく。じわじわと広がる温かい体温。この時ばかりは、目の前のこの人間も自分も、生きているのだ、と改めて実感することができた。  ― いつになったら、こいつからこの温かさが消えてくれるのだろうか。  快感で昂る体。しかし、心は氷のようにつめたく冷えていった。  「夜...今日は俺の部屋で寝ていけ」  漸く長い長いキスが終わったかと思えば、耳元でそう囁かれる。  少し掠れたその声は色香漂うものであったが、愛都は何も感じることはなかった。  「え...?でも相部屋の人は、」  「相部屋の奴は今日は居ない。あいつは他の奴の部屋で集まってそのまま泊ってくるって朝に言ってた」  「...そうなんだ。...んー、なんか嬉しいな。1日香月君とずっと一緒にいられるなんて」  引きつりそうになる口角を上げ、満面の笑みを香月に向ける。そうすれば香月は片方の口角上げ、いけすかない笑みをつくると愛都のことを見下ろしてきた。  ― 1日中こいつと一緒にいるなんて、最悪すぎ。  そう、こぼれ出そうになった本音は飲み込み、体の奥深くに押し込む。  今の香月に見せていいのは、満面の笑みと、慕っているような態度。そして好意を伝える熱い眼差し。  愛都は自分ながらにその演技が完璧だと思った。だがなぜか...――――――  ――――― そんな自身の本心に気がつかない目の前の男に僅かな失望を抱いた。  香月が見ているのは楽しい楽しい夢物語。それに気がつくのはいつになるのか。  それとも...―――― これが夢だと気がつくこともなく絶望に浸り、堕ちていくのだろうか。

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