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【前編】味噌汁よりも、ほかほかご飯よりも、お好み焼きよりもハンバーグよりもメロンよりもアルルンが好き
スパダリはスパダリだから仕方ない。
スパダリとは忙しい生き物なのだ。
だからスパダリという。
スパダリなんだから……
「うぅ~」
「オメガはお腹が痛いんですか」
「大丈夫。夕食は全部食べられたよ。うぅ~」
「じゃあ、嫌いなものがあったとか」
「そうじゃない……」
ジャンガリアンハムスターのジャンと、スズメのスザクが作ってくれたご飯。
味噌汁に、ほかほかご飯に、お好み焼き、ハンバーグ、食後のメロン。
ちょっとカロリーが心配だけど、全部俺の大好物♪
「オメガの好きなものは熟知しています。アルルン様に全部聞きましたから」
うっ、うっ、うぅ~~~
「アルルぅぅーン!!」
「わわわっ」
「どうしたんですかっ、オメガ」
俺、皆に心配かけている。
悪いΩだ。
こぼれ落ちた涙をジャンの小さな手が拭いてくれた。
「アルルン様のお帰りまでもう少しですよ」
「うん」
アルルンは南の島で公務だ。
国土の飛び地であるため、容易に帰ってこられない場所である。
最南端の拠点のため、アルルン自ら出向する事になったのだが、最後にアルルンの声を聞いたのはいつだったろう。
欠けた月が満ち始め、また欠け出した。
「スザク様、ご所望の物が届きました」
「承知した。すぐ南の島へ送ってくれ」
ドアから顔を覗かせたのは従者のアデリーペンギン・アデルだ。なんだか困り顔してる。
「それが……クイーンサイズが届きまして」
「キングサイズで注文したのにか」
何の話だろう。
「スザク?キングサイズって?」
「ベッドだよ」
口にした瞬間、ピピピピピーッ
スザクがむせいだ。
「オメガ、所用を思い出しました。これでっ」
「発注を確かめに行く。すまんなっ」
ジャンと、お供を伴ってそそくさとスザクが出ていってしまった。
南の島で……
キングサイズ……
分かってた事だよ。
アルルンは国王様だ。
(お世継ぎが必要なんだよね)
俺はΩだけど。
Ωじゃない。
子宮が未発達だから産めないんだ。
アルルンのこども。
………だから、いつかこうなる事は分かっていた。
(俺じゃない奥様をお城に入れないのは、アルルンの優しさなのかな?)
スパダリ夫は優しくて……
優しさが苦しくて、涙があふれた。
好きの気持ちが止まらない。
あなたのこどもは産めなくて。
あなたの望みは叶えられないのに。
好き……
あふれてくる。
大好き
アルルン
だから。我慢しなくちゃ。
あなたがいない夜。
あなたを愛しているから、あなたのこどもも、愛したい。
愛せるかな?俺……
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