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『吸血鬼×うさぎちゃん』
「ほ、ホンモノだ……!」
頭に装着した長い耳が落ち着かない由宇は、ほとんど裸体でベッドルームから出てすぐに一歩を踏み出せなくなった。
リビングのソファで気だるそうに腰掛けている黒ずくめの男は、交際から約四年が経つ恋人に間違いない。
彼の私服はいつもあんな感じなので、色味が同じなだけであればこんなにも驚きはしなかった。
「何が」
「いやいや、先生……っ、やっぱりそっちの世界の人だったんだ! どうりで日光が苦手なわけだよ!! 納得!!」
チラ、と由宇に視線を寄越す、恐ろしい眼差し。
肩から伸びる長い黒マントと、この距離からでも確認できる二本の牙。
驚くだろう。
映画の世界でしか見た事のなかった吸血鬼が、由宇の目の前でテレビのリモコンを片手にしているのだから。
「ホンモノってどういう意味」
「先生似合い過ぎてる! ていうかそのまんま! 今魔界から降り立ちましたって言われても全然違和感ない! 俺ほんとに血吸われそうだよ! ……あっ、そんな睨まないで! 似合ってるって言ってるのに!」
「………………」
ハロウィンだしせっかくだからコスプレしようよ〜♡と考えナシに持ち掛けたのは、確かに由宇だ。
しかしまさか、異国のイベントだからと本物が姿を現すとは思ってもみなかった。
橘の吸血鬼スタイルは、顔や髪型、表情や振る舞いすべてが似合っているという次元ではない。
じわ、と立ち上がり、黒く艶めくマントをヒラヒラさせて立ち竦む由宇のもとへゆっくりとやってきた彼は、まさに吸血鬼そのものだ。
「おい、ポメ。 俺はお前と作者のお遊びに付き合ってやってんだ。 なのに? お前はそんなハンパな事しか出来ねーの?」
一歩も動けない由宇は簡単に腰を抱かれ、吸血鬼の人差し指で顎をクイッと持ち上げられる。
細まった瞳を見てみると、赤色のカラーコンタクトレンズまで装置されていた。
うっかりこの瞳を見詰めるとたちまち生気を吸い取られ意思が無くなり、人間を彼らのいいようにするべく暗示めいたものを送り込まれる。 ……という遥か昔に観た映画の内容を、由宇は思い出してしまった。
「どういう事なのか、聞いてんだけど」
「あっ……だ、だってこれ、……っ!」
「何だよ」
胸元を隠す何かと、ブルマのような作りのパンツ、まるで分厚い靴下のような安定感の無いブーツ、そして頭に付けた耳カチューシャはすべて真っ白なフェイクファー素材で、由宇はこれでもかなり羞恥に耐えながら着てみたのだ。
"ハンパな事" の見当はついているが、こんなにもハロウィンを無視した破廉恥なコスプレ衣装を寄越した恋人には言われたくない。
「だって、……だって……! これ、ほとんど裸なんだもん!!」
「そこじゃねぇ。 ケツに尻尾ついてねーじゃん。 ピーピー喚く前に完璧に着こなしてから文句言え」
「む、無理だよっ! 自分でなんて、そんな……っ」
不機嫌そうに眉を顰めた吸血鬼に問い詰められながら、じわじわとベッドルームに舞い戻らされているのは気のせいか。
その尻尾を装置するかしまいかで、由宇は何十分もベッドルームに立てこもっていた。
あれを付ければ完璧なコスプレの完成となるのは分かっていたが、由宇には無理だった。 出来なかった。
ベッドの上に転がったふわふわの丸い塊の先には、どう見てもいやらしいものが付属されているのだ。
隣に転がるローションが、まさしく由宇の心を折った。
「教えただろ。 ケツに指突っ込んで慣らして、二本入るようになったらコレ挿れろって。 そのためのローションも渡したはずだ」
「もぉぉぉ~~~~っっ!」
「いやお前が着てんのはうさぎ。 牛じゃねぇ」
「分かってるよ!!」
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