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『ビックリ箱』

side潤  陽の短くなった真冬の夜道。  勉強に差し支えない程度にはなってしまったが、潤は相変わらずBriseの看板店員の座を守っている。  年が明ける度にアルバイトリーダーの打診をされるけれど、お世話になった店で働くのは残り僅かなので毎年返事は決まっていた。  潤はひたむきに天との番関係を夢見ていて、院には進まない事を決意している。  それは両親とも天とも話し合い、潤の人生だからと初めて通った自らの主張だった。  あと一年頑張れば、天のもとへ行ける。  親孝行な天は未だ恐縮している、彼の母からプレゼントとして贈られた2LDKのマンション。  潤の事をいたく気に入ってくれている天の母との仲は良好だが、我が身内に関しては目を瞑っていたくなる。  大学進学を機に本宅へ戻れという両親の言いつけを突っぱね、いつ天が訪れてもいいように鍵を変えてそこに住み続けている潤は、大人になりきれていない自覚があった。  毎年クリスマスシーズンは混み合うため、閉店まで勤務しなければならないので天と過ごす事が叶わない。  店内でイチャつくカップルを見ては羨ましい気持ちでいっぱいになり、家路に着くまでムッとしてしまうのも大人げない事柄の一つ。  天の誕生日にかこつけて、年末年始を共に過ごせる事だけを楽しみにしているけれど……我儘を言えばやはり会いたい。  スマートとはとても言えなかった当初のデートを振り返り、心に懐かしさと甘酸っぱさが広がる感覚でようやく平静を保つ。  ──今日は一段と冷え込むから、ちゃんとお布団掛けて眠ってね。  変わらず日課となっている就寝前の電話をしようと、台詞を口ずさみながらスマホと別宅の鍵を取り出す。  その時だった。 「あ、──!?」  ふわりと香った、天の甘い匂い。  鍵を鍵穴に差し込み、思わずフリーズしてしまうほど衝撃的に舞い上がった。  潤と天しか持ち得ないこの別宅の鍵。  明らかに漂ってくる、αである潤にしか嗅ぎ分けられない天の香り。  ──天くんが来てる……!?  差し込んだ鍵をゆっくりと回し、扉を開く。  〝潤くん、おかえり〜〟という天の和みの声を期待した潤だったが、真っ暗な玄関先に足を踏み入れて再度フリーズした。 「え……?」  薄暗い中でも一際目を引く、どデカい箱。  靴を脱ぎ、カチッと電気を付け、念のため天の姿を視線だけで探してみた。  しかし、どう考えても天のフェロモンはこの白い箱内から漂ってくる。  付き合って約三年だろうか。  天がイタズラ好きだとは知らなかったが、間違いなくこの中に居る事だけは分かる。  潤を驚かそうと身を潜めている天を想像すると、嫌でも口元がニヤついてしまった。  目の前にこんなものがあれば驚く方が不自然かもしれないけれど、天のイタズラに付き合うのも恋人の役目であると判断した。 「う、うわ〜これ何だろ〜? 何が入ってるのかなぁ?」 「………………」  わざとらしいかと思いつつ、箱に向かって声を張る。  しかしまだ出てくるつもりは無いらしい。  ──あっ、でも匂い濃くなった。 ドキドキしてるんだ……♡

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