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城崎さんノ美味しいおやつ。番外編
「ありがとうございました~」
コンビニのバイトも後少しで終わり。
あと少しで帰れる!あ~腹減ったし眠い。
早く帰って寝たいわ~。客も疎らになって気が抜けてあくびも出る。
そんなまったりした時だ。1人の客が入ってきた。
パーカーのフードをすっぽり被って、店内を見渡し何かを探している。
気にすることでもないけど、気になったのは客が着ていたパーカーだ。
あるブランドの物で、ファッション雑誌に載っていたから覚えてるし、欲しいと思ってたやつ。
まぁ欲しくてもうん万するやつだから買えない代物だけど。
着てる奴初めて見た……羨ましい。
良く見たら履いてる靴もかなりいいスニーカーで高そう。どこのブランドか気になる。
どんな奴か気になるが、フードが邪魔しているから顔は見えない。
なんとなく年は若そうで学生の俺と同じくらいだろうか?そいつはキョロキョロと店内を見渡し、おにぎりの棚の前で立ち止まり悩んでいるようだった。
迷って手にして持って来たのは鮭とお赤飯だった。
「いらっしゃいませ」
「……あ、あの」
「はい」
「おにぎりの昆布って品切れですか」
「あー出てなければ……」
「そうですか」
明らかに残念なトーン。
昆布がなかったくらいでそんなにテンション下がるか?
ピッと会計をしている時、フードから覗かせた顔にぎょっとしてしまった。
女?いや男?
男の俺でもドキっとするような美人だった。
しかも瞳がブルーで髪は金髪。美形だけど幼い顔立ちで外国人なら十代かもしれない?
スッゲー!写真撮りたいくらい可愛い!
有名人か?先ほどまでの眠気が吹っ飛ぶくらい内心興奮してしまった。
「こ、昆布おにぎり、旨いですよね~!」
「え」
馬鹿!昆布おにぎり食ったことないだろ俺ー!
……客が可愛くてつい声をかけてしまった!
きょとんとした表情が少し緩み優しい笑顔に変わった。て、天使っ!
「はい美味しいですよね!僕も昆布おにぎり好きなんです。あ、でもシャケもお赤飯も好きですよ!」
「赤飯もヤバいですよね~!」
って!赤飯こそ食ったことないわ!
だけどちょこっと笑った顔がヤバいくらい可愛い!男だと分かっていても自分の顔がデレデレしているのが分かる。
この子日本語上手いし、妙な親近感がある。フード取ってくれないかなー!
「こらサラ」
自動ドアが開いたと思ったら、身なりのよい男性が現れた。
うっわ……サングラスをしているけど完全にイケメンだ。海外セレブ?って思うくらい良いスーツを着てるし、後ろでひとつに束ねた長い黒髪のおかげで完全に一般人に見えない。
しかもやたらいい匂いがする!モデルか?そいつはまっすぐレジまでやってきた。
「まったく、何をしてるかと思ったら……」
「ごめんなさい。これだけ」
「はぁ……」
会計を済ませたパーカーの人物はスーツの男性に肩を抱かれて去って行ってしまった。
去り際に何故かサングラスのイケメンに強烈な流し目されたのは何か理由があるのか?
イケメン……スゲーイケメンでドキドキが止まらない。
勤務時間を過ぎたのに、俺はボーっとレジで二人が去って行った自動扉を暫く眺めていた。
「ご希望のものはあった?」
「はい、ギルさんも食べます?」
「俺はいいよ。サラが食べなさい。だけどあんまり……」
「分かってるよ。久しぶりの帰国だからギルさんが許してくれてるってこと。あ、だけど今のコンビニには昆布がなかったから帰るときにまた覗かせて」
アメリカに住むようになってから数十年が経ち、僕と京さんは今回久しぶりに日本へと帰ってきた。
ちなみに今の僕の名前はサラ・アンダー、京さんはギル・アンダーと名乗ってひっそりと暮らしている。
しかし僕が先日うっかり「鰻が食べたい」と口走ったばかりに今回日本へ来ることになってしまったのだ。
もちろんアメリカでも鰻は食べられる。
だけどやっぱり二人が初めて食べた鰻の蒲焼きは思い出深くて、本場に食べに行こうとなったのだ。
思い立ったら直ぐ行動のギルさんだから、早々に飛行機チケットを予約していたし、ホテルもスイートを押さえようとしていて慌てて待ったをかけた。
どこかに出かけるときは大抵高級ホテルのスイートに寝泊まりをするのだけど、実のところホテルの高級さに慣れない僕は「たまには旅館に泊まりたい。お、お布団で寝たいなぁ!」とおねだりをしたのだ。
ホテルは勿論綺麗でセキュリティもしっかりしているし利便性も良くて申し分無いんだけど、ちょっと肩の力を抜いてゆったりとした時間を過ごせたらなと思っていた。
ギルさんは都会が好きだから、旅館なんて却下されるかと思ったら、意外にもオッケーが出て嬉しい。
久しぶりのふるさと日本に帰って来たのだ。
そして車で旅館に向かう途中、コンビニに寄って懐かしのコンビニおにぎりをゲットしたところだった。
コンビニおにぎりは、学生だった頃に良く食べていて懐かしい日本のご飯のひとつだ。
ギルさんと一緒に住むようになってから身体に悪いからと言われ食べなくなってしまったんだけど今日は特別。ギルさんが運転する助手席でお赤飯を食べる。
アパート学生だった時のことが甦り懐かしい。
あの時友達だった皆は何をしているのだろう。年をとり、家庭を持っているだろうか。
「お、美味しい~……懐かしい味がする。素朴な味~!やっぱり僕って日本人だなぁ~」
「そうだよな。味噌汁とかやっぱり旨いって未だに思うし、明太子と白飯最高ってなるものな。金髪になっても味覚は変わらないよな」
「当たり前です。不良になっても心はジャパニーズ」
そう。不良になってしまうか不安だったそれは現実のものとなり、僕の黒髪は見事にブロンドになってしまった。
プラチナブロンドに近くて色味は薄い。
おまけに瞳の色もブルーになってギルさんとお揃いになっていた。
初めは変化する自分の容姿に慣れなくて鏡を見るのも嫌な時期があったけど、それはギルさんがいつも励ましてくれたことで克服することができた。
薄い色になっていく髪をいとおしいと言っていっぱい撫でてくれたのに、僕は何度も泣いた。けどそれは派手な容姿に戸惑い泣いていたわけだからギルさんは全く悪くない。だけどギルさんは責任を感じたみたいで、僕への過保護気質が更に過保護になってしまった。
着いた先は海に近い日本家屋の高級旅館で、何もかもが純和風だ。
「わぁ~!素敵!障子に襖~!竹林が見えるよ~!」
「こらハシャギ過ぎだぞ」
「ほほほ、日本語がお上手ですね」
「ありがとう。以前日本に住んでいたので勉強したんですよ」
「どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ」
品の良い仲居さんが去ってからギルさんは上着を脱ぎクローゼットへ収める。
そんなギルさんの所へ駆け寄り、腕を組んで引っ張り窓まで連れていく。
「雰囲気ある日本庭園ですよ。凄く綺麗ー!竹林行きたいです」
「4つ星だからな。たまにはこういうところも有りか」
「有りです。僕は好きですよこういう畳にお布団ってやっぱり落ち着きます」
「そうか?サラがそんなに気に入ったならうちにも和室を作ろうか」
「え?いや!それはいい!うちには必要ないからっ!」
思案し始めるギルさんを慌てて止めるのに正面から思い切り抱きつく。
ちゃんと止めないと本当にうちに和室が出来てしまう。抱きついてギルさんの顔を見上げれば色っぽい笑みで見つめられ優しく頭を撫でなれた。
「本当に必要ない?」
「……ないです」
「そうか。それは残念だな。こんなにサラが喜ぶなら安いものだぞ」
「ギルさんも言ってたけど、こういうのはたまにだから良いんですよ。本当大丈夫です」
困った人だなぁ。そう思いながらギルさんの頬に手を伸ばし優しく撫でる。
本当にこの人は僕に甘いんだから。
この人って言っても吸血鬼なんだけど、僕の血が未だに大好きで、恋人同士になり海外に住むようになってからも恥ずかしいけど毎月新婚旅行だとか言って世界各地のリゾート地を巡ったりした。
旅行なんて目立つことは控えた方がいいと言っても聞いてくれない。
「そうだ。ギルさんにちょっと僕の……食べてもらっていいですか?」
「え、嬉しいな。サラから誘ってくれるなんて……今日は大胆だな」
「え?あ!違いますっ!吸血の方ですよ!吸血!」
「はいはい、分かってるよ。おにぎり食べたからだろ?」
「は、はい。分かっちゃいました?」
「分かるさ。ここの晩御飯楽しみだからお腹空かせておきたいんだろ」
「えへへ」
「良いよ。喜んで」
そう言いながら僕の唇はギルさんの唇に塞がれ、下唇を甘噛みされた。
最近の吸血行為はこんな感じだ。
生き血は僕が年を取らなくなっても味は変わらず美味しいらしい。
身体を抱き寄せられてギルさんの匂いに包まれる。
「……ン……」
舌が絡み合い吸血する際に少し痺れるような感覚が走るが、それさえ感じてきてぞくぞくしてしまう。
あ……ギルさんの手がパーカーの中に……
服の中に侵入した手が指先が僕の背中や腰をゆっくり撫でてきて余裕がなくなる。
敏感な脇腹を指先で触れてきて、身体がピクリと反応してしまった。
「…………どうした」
「……はぁ……ん……だって……」
じぃっと見つめてくる瞳は人間のものではなく瞳孔が細くなっている。
それが妙に色っぽくて直視できないくらいなのに、僕の目の前にそれがある。
長い髪がまた乱れ頬にかかっていてカッコいいから本当参ってしまうんですけど。
「京さ……」
「……はは……桜……その顔色っぽくて可愛いよ」
「や、やっぱり……ちょっとだけ僕のこと食べてもらいたい……です」
「……食べるよ。桜は俺のものだからね。何回食べても飽きない」
「本当に飽きません?」
「悔しいくらいね。桜が引くくらい飽きないよ。俺も頑張らなくちゃ」
「……京さんは頑張らなくてもいいですよ」
「いいや、桜がもっと欲しいって言ってくれるようなテクニックを覚えないと」
「な、何言ってるんですか」
「桜は背中弱いから念入りに可愛がってあげる」
気が緩むと未だにこの名前で呼びあってしまう。
イチャイチャしたくなる時につい口から出てしまうから、今回は先に言った僕の負け。
「ご飯の後も……する?」
「勿論、そのつもり。なんならお風呂も一緒にはいるか?部屋に素敵な露天風呂が付いてるよ」
「…………え!は、入りたいです!お酒を湯船に浮かばせて飲みましょう!」
「あはは、いいね。桜……可愛い……」
「京さんだって、相変わらずカッコいいです」
「桜に言われると不思議と照れるな」
「言われ慣れてますもんね。ギルさんモテモテだから」
「モテるよ。昔からモテるから仕方がない。だけどあいにく俺は桜に一途だからね」
「……」
「脱がしてもいい?」
「…………はい」
「はは、最高可愛い」
「京さんのエッチ」
「エッチなことしたいよ。愛してるからね」
「……へへ。僕も……」
「エッチ?」
「……ちがっ……ちが……くないです。だって京さんに夢中だからエッチなんです」
「はは……いいね」
「好き」
「……好きだよ」
それからは二人だけの甘い甘い時間。
甘ったるくてスミマセン。
甘々は朝まで続きます。(笑
おしまい。
読んで下さってありがとうございました!
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