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第6話

志愛が作った料理は美味しかった。 作る過程を見ていたが、手慣れていて、きっと彼は普段から作っている。 料理得意って言葉は嘘では無かったようだ。 「いつか、1人暮らししたくて家事出来るようにしてるんです」 ニコッと微笑む志愛。 「大丈夫なの?……あ、変な意味じゃないよ?」 サトルが志愛の言葉に反応する。 車椅子の彼を心配しての言葉だと楓も志愛自身も分かっている。 「何時までも実家とか成人してるのにって思ってて……俺が普通の身体ならとっくに1人暮らししているのですけど、両親が心配して……過保護ですよね。まあ、仕方ないんですけど」 ふふっと笑う。 「あ、でも、友達の所に行くって言ったら喜んでいたんですよ!俺、友達居なくて」 照れたように笑う彼は可愛い。 「だから、楓さんやサトルさんと仲良くなれて嬉しい」 ストレートに感情を言葉にする彼をとても羨ましく思う楓。 楓はどちらかと言うとかくしてしまから。 「じゃあ、これからもよろしくね!色々遊びに行こうよ、俺、車出すし」 「わあ!嬉しいです!あ、でも、聞いて下さい!俺も免許取るんですよ」 えへへと嬉しそうに言う志愛。 「そうなの?凄いねえ」 「車、ちょっと普通より高くなるから頑張って仕事しないと」 「そうか!頑張れ」 サトルは志愛の頭を撫でる。 「もう!なんか、子供扱いしてません?」 頭を撫でられ少し不機嫌な顔をするが怒っているというより、じゃれている……そんな感じだ。 「志愛は何か弟みたいで可愛い」 サトルは優しく笑う。その笑顔は本心を語っていると言っている。 「まあ、いいですけど」 可愛いと言われたから照れたのか、弟みたいだと言われたのが嬉しいのか志愛は視線をそらす。 「免許取ったらドライブいきましょうね!」 志愛は楓を見る。 「うん」 「約束ですからね!楓さんはインドア派な感じだから連れ出さないと」 「だな!コイツは部屋から出ないから」 サトルもそう言って笑う。 「うるさいなあ!部屋が落ち着くんだよ」 そう、返すが本音はあまりお金を使いたくはないから。 外に出れば意外と金を使う。 ボンヤリと公園とか居ても今の時代は何故か不審者とみなされ通報されてしまうのだ。 商業施設までは歩くと遠いし……だったら、部屋でボンヤリ過ごす方がいい。そう思っていた。 「楓さん、好き嫌いなさそうで良かったです」 「えっ?」 ふいに話かけられ、志愛を見る。 「全部食べてくれたから」 「うん、美味しかったから」 「本当ですか?」 志愛はパア~と花が咲くように笑う。 この笑顔が好きだ。 「俺、頑張ります!楓さんに栄養をつけて貰わなきゃ」 「そうだな、楓はもう少し太れ」 サトルは楓の腰に手を回す。 「細いんだよ」 「細くないよ!細いっていうのは志愛みたいな感じを言うんだよ!」 楓は志愛の手を掴む。 楓の手が余るくらいに細い腕。 「細すぎだろ?」 少し驚いてしまった。 「志愛、何キロ?」 「えっ?この流れで聞きますか?今は楓さんの栄養の事ですよ?」 「いや……細いから女の子くらいの体重かな?って」 「女の子って……俺に失礼ですよ?」 「ちょっと待って」 サトルは前のめりになると志愛の腰に手を回し、両脚の下に手を回すと一気に抱き上げた。 「わあ!ちょっと、サトルさん!!!」 急に抱き上げられた志愛は驚く。 「軽っ!!」 サトルはそのまま志愛を楓に渡す。 楓もひょいと志愛を抱き上げて「志愛も食べろ」と言った。 「何なんですか!そうやって、自分の事はぐらかして!」 ムッとした顔で楓を見る志愛。 「はぐらかしてないよ?」 「はぐらかしてますよ!自分の話になると直ぐに他の話とすり替えるでしょ?ダメですからね!俺はちゃんと楓さんに食べて貰いますから」 キッと強い瞳で睨む志愛。 可愛くて童顔なのに、こういう時は大人に見える不思議な子。 「志愛は凄い洞察力あるな……その通りだよ、楓は自分の話になると直ぐにはぐらかすんだ」 「サトル……」 止めろよ!っていう瞳で彼を見る。 「志愛が大人だな……うん、俺も買い物とか手伝うから」 ニヤニヤするサトル。 「ありがとうございます」 サトルに視線を向けて微笑む志愛。 「それから楓さん、そろそろ下ろして下さいよ!片付けしないと」 志愛の言葉で彼をお姫様抱っこしたままだと気付く。 「か、片付けは俺がするから」 「だめ!!病人でしょ?」 楓は志愛を下ろす。 「じゃあ、片付けは俺がするから楓と志愛はテレビでも見てろよ」 サトルはテーブルの食器を重ねる。 「食器洗いは任せろ!何せ、親の店を手伝っているからプロだ!」 ニヤリと笑うサトルに釣られ、楓も笑う。 サトルの好意に甘える事にした。

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