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第5話

◆◆◆ 「志愛、仕事は?」 「休み貰ったから大丈夫です」 「えっ?それって俺のせい?」 「違います。俺が休みたいから休んだんです!楓さん、俺の事よりも自分の事でしょ?分かってます?」 今日の志愛はいつものやわらかい雰囲気とは違う。なんとも迫力がある。 「とりあえず、お前、しばらく休みだからな」 サトルの言葉に楓は驚いて顔をあげる。 「それ!困る!!」 「いや、楓に出てこられたら会社が困るだろ?俺が休めるように手続きしてるから」 「そんな!!休んだらお金……」 「お前な!有給って言葉知ってるか?それと、病気で休むなら保険きくんだから傷病手当とかあるんだぞ?」 サトルの言葉で楓は少し安心したような顔になる。 「休んでても金出るんだから安心して休めよ」 「でも……」 いいのかな?なんて思う楓。 「いいんだよ。楓は誰よりも仕事してるし、上司もさ楓が休めば少しは楓の有り難さが分かると思うぞ?」 「そうかな?思うかな?」 「思うよ」 サトルはそう言って楓の頭を軽く撫でた。 「楓さん、しっかり休んで下さいね。俺、お見舞毎日来ますから」 「へ?毎日?」 「そう!毎日!!楓さんが良くなるまで」 ニコッと笑う志愛はいつもの彼の笑顔で癒された。 毎日……来てくれる? 悪いなって思う反面、何故だろう。すごく嬉しい。 「楓さんの家ってアパートですか?」 「うん、そうだけど?」 「何階ですか?」 「1階……1階の方が安いし」 「階段とかあったりしますか?」 「えっ?無いよ?」 志愛の質問に答えながら、何故彼がそんな事聞いてくるのだろう?って考えて、もしかして……と考えた。 毎日来るって言ったよな? 入院は長くはしない。 って事は…… 「あの……楓さんのアパートって遠いですか?」 その質問で確信した。 「そんなに遠くないよ?」 「場所詳しく教えてください」 やっぱり!!! きっと、志愛は部屋に来てくれるつもりだ。 「俺、こう見えても料理得意なんです!」 ニコッと笑う志愛。 この言葉で確信に変わった。 「俺が迎えに行くよ」 サトルが志愛に微笑む。 「こいつはさ、部屋に帰っても飯食わないと思うし」 チラリと視線を向けるサトルと目が合わないように外らす楓。 「見張ってないとな!」 ポンと大きい手のひらが楓の頭にボスンと乗っかった。 ◆◆◆◆ なんとか1日だけの入院で済ませられた楓はホッとする。 お金をこんな所で使いたくはない。 「楓~こっち!!!」 病院を出た所でサトルの声がした。 振り向くと彼が手招きをしている。 「アパートまで送るから」 「いいよ、歩いて帰……」 「志愛くんも一緒だから」 断わろうとするのを遮るようなサトルの言葉。 志愛も一緒…… 楓はサトルの方へと歩く。 駐車場まで連れていかれて、サトルの車を見つける。 後部座席の窓から顔を出して楓に手を振る志愛。 昨日も面会時間ギリギリまで病室に居てくれた彼。 笑顔で楓に手を振ってくれるので、思わず釣られて手を振り返す。 「昨日言ったでしょ?料理作るの上手いって」 近付くとそう言う志愛。 本当に作ってくれるのかと嬉しくなる。 「ほら、乗れよ」 サトルに助手席のドアを開けてもらい車に乗り込む。 後部座席には志愛と買い物袋が数個ある。 材料費とか…… 楓は志愛の方をみて、「材料費いくら?」と聞いた。 「何言ってるんですか!俺が勝手にやってるだけなんで要りません」 「そういうわけには!!」 「だめです!」 「いや、払うから」 そんな押し問答をしていると、「楓、こういう時はありがとうだけでいいと思うけど?」とサトルが2人の間に入った。 楓は志愛をみて、「ありがとう……」と照れくさそうに言葉にした。 「どういたしまして」 ニコッと笑う志愛。 フワフワと心が空に飛びそうだ。 男に可愛いとか失礼かもしれないけれど、志愛の笑顔は癒される。 楓のアパートはアパートというより、作業場として使われていた名残があり、玄関が広く段差がない。 安ければどこでも良かった楓は部屋の間取りや色んな事を考えもせずに決めたのだが、今はそれが良かったって思う。 何故なら車椅子が通るし、楓には低くて使いにくかったキッチンは志愛には丁度良いのだ。 「お前が料理作っていなかった理由ってコレ?」 サトルが低すぎるキッチンを指さす。 「うん。元々作業場として使ってたみたいでさ、キッチンじゃなくて洗い場だった名残。だから、腰が痛くなるしさ使いにくかったんだ」 「でも、俺には丁度良いです」 ニコッと笑う志愛。 「料理作りますって言った手前、キッチンやコンロに手が届かなかったらどうしよう?って内心ドキドキだったんですよ」 ホッとしたような志愛の表情。 低いキッチンで良かったってこんなに強く思った事はない楓だった。

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