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第4話
「あの、ここって車椅子での来店って大丈夫ですか?」
「バリアフリーにしてるから大丈夫よ?」
サトルの母親は微笑んで答える。
「なんで車椅子?」
サトルが不思議そうにきく。
「友達が……その、カフェオレ奢ってやるって約束してて、ここのカフェオレ美味しいから」
「いつも、LINEしてる子?」
サトルはニヤニヤと楓を見る。
「そ、そうだけど」
「彼女?」
サトルの母親に聞かれ、楓はぶんぶんと首を振りながら「男友達です!!」と返事をする。
「なんだ、男か……お前が嬉しそうにLINEとかしてるし、喫茶店とかデートで良く使うだろ?てっきり、彼女かと」
「ち、違うって言っただろ?」
「お前、照れてる時とか緊張してる時とか敬語になるからさ……聞いた時に敬語になったから……」
サトルの言葉で、えっ?俺、そんな癖あるの?と驚く。
「ち、違うし!!」
照れてる……緊張?
緊張はしてたかも知れない。
志愛にキツイ事言わないように気を付けていたから。
あんなに可愛く微笑む彼をもう傷つけたくはない。
「お友達連れてきてね。ここは静かだから」
サトルの母親に微笑まれて、楓は頷く。
◆◆◆◆◆
楓はその日の夜に志愛にいつが休みかを聞いた。
ただ、休みを聞くだけなのに、何度も文章を考えて、送信ボタンを押すのにかなりの時間がかかったのだ。
LINEを送って直ぐに月曜日が休みだと返信がきた。
月曜日……楓も休みだ。
よし!!!!と思わず力んだ。
そして、雰囲気が良い喫茶店を見つけたから行こう!!とLINEを送る。
直ぐに既読になり、
行きたいです。と返事がきた。
よしよしよし!!!
じゃあ、ランチしよう?
楓の言葉にはい。と直ぐに返事が。
よしよしよしよし!!!!
じゃあ、11時に迎えにいくよ。と返信。
迎えにまで来てくれるんですか?と志愛。
車出すから、お店まで行くよ。と返信。
ありがとうございます。
志愛は直ぐに返信をくれた。
よーし!!!約束取れた!!!
楓は急いで車の掃除をしなきゃと車用の小さい掃除機を手に部屋を出た。
掃除をしながら早く月曜日にならないかな?なんて遠足前の子供みたいなワクワク気分になる楓。
誰かと外出なんて社会人になって初めてだった。
サトルとも別にどこかへ遊びに行く事はしていないし、会社にプライベートで会う人は作っていない。煩わしいから。
会社で会うのにわざわざ外で……そう考えて、じゃあ、アイツとも外で会うのは初めてになるな。とサトルの事を思い出す。
たまに会社の飲み会で飲むくらい。男って女と違い買い物とかランチとか頻繁にしないし、互いに誘う事はしていなかった。
外で誰かと会う……。
こんなにワクワクしてしまうものなのか……
そして、ワクワクして楽しみにしている自分に罪悪感が芽生えて掃除する手が止まる。
いいのかな?俺……嬉しいとか、こんな……
楓はストンと暗くて底がないマイナス部分の気持ちへと落ちる。
嬉しく思ったり幸せな気持ちになるとこうやって気持ちが沈む。
もうずっとこの辛い感情と戦ってきた。
幸せになってはいけない……
身体全部にマイナスな気持ちが血液と一緒に駆け巡る。
こうなるとダメなのだ……胸が締め付けられる。息が苦しい。
胸を押さえてその場に座り込む。
やばい……
必死にもがく。こういう時、どうするんだっけ?
楓は持病というか心に爆弾を抱え込んでいて、それが不意にやってくるのだ。
久しぶりの発作。しばらく出ていなかったのに。
部屋に戻って……
そこで意識が途絶えた。
◆◆◆◆◆
「楓」
名前を呼ばれて目を開けた。
「よう!!どうだ、気分は?」
自分を見下ろすサトルが視界に入ってきた。
自分の部屋ではない天井も同時に入ってくる。
病院……。
「お前が目を覚ましたって言ってくるよ」
サトルの言葉でやはり病院かと分かる。
いま……何時だろう?
なんで、サトルが居たんだろう?
色々考えていたら部屋に誰かが入ってきた。
「楓さん」
聞き覚えのある声……その声の方をみると、
「志愛……」
志愛が心配そうな顔をしている。
「えっ?なんで?」
「楓さんが病院に運ばれたって楓さんのお友達が教えてくれて……サトルさん」
「サトル?えっ?なんで?サトルと知り合い?」
楓はプチパニックだ。
「こら、落ち着け、」
志愛と楓の間にサトルが入ってきた。
「後から説明してやるから、まずは診察受けろ、志愛くんも外で待っていような」
サトルはそういうと志愛の車椅子を押しながら部屋を出て行った。
直ぐに医者が入ってきて診察された。
医者から過労と栄養失調気味だと診断され、今日は家へ帰せないと告げられた。
医療費……高いのに!!!
今すぐに帰りたい。そんな衝動に駆られる。
◆◆◆◆
「お前……栄養失調って」
呆れた顔でサトルが部屋に戻ってきた。
「た、食べてたよ!」
「食べててもなるんだよ!!カップラーメンとかバランス良く食べないと」
サトルに怒られムスッとする。
「楓さん大丈夫ですか?」
志愛の声にハッと思い出す。
どうして志愛とサトルが一緒に居るのかを。
そして、サトルから受けた説明は、
「お前が店に財布忘れてるって気付いて電話しても出ないし、困るだろうって届けにきたらお前が倒れてたんだよ。で、救急車呼んで……で、志愛くんはお前、咄嗟にLINEの無料通話押してたんだよ。スマホから声するから代わりに出て状況をずっと説明して、朝になって心配する志愛くんに病院の名前教えたわけ!」
説明を受けてなるほど……と納得。
「びっくりしました。楓さんから電話あったから出てみても返事ないし、名前呼んでたら知らない人が出るし……救急車呼んだとか言われるし、俺……心配で」
志愛はみるみるうちに涙目になる。
ええっ!!!!ちょっとおおお!!
「し、志愛、俺大丈夫だから!!」
楓は慌てる。
「ダメです!!栄養失調とか!!」
志愛はキッと強い瞳で楓をみると、
「ご飯はちゃんと食べてもらいますからね!!ねっ、サトルさん」
「そうだぞ」
頷くサトル。
なに……この2人の気迫……
楓はその気迫に負けそうだった。
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