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第3話

「あ、でも、怒られて嬉しいならMになりますね」 志愛が真顔で言うものだから楓は笑ってしまった。 「あの、また、来てください」 「えっ?」 「花を買いに……あ、遊びにだけでもいいですよ?」 楓が好きなあの笑い方でそう言うものだから、つい、「はい」って言ってしまった。 「楓さん、家近くですか?」 「あ、うん、最近、引っ越してきて」 「じゃあ、尚更です。買わなくてもいいから来てください。家が遠いなら無理には言わなかったんですけど、近いなら」 「うん」 そう約束した。 そして、肝心のごめんなさいをちゃんと言っていなかったと思い出す。 でも、怒られて嬉しかったって言ったよな?普通の人の扱いされたからって……じゃあ、謝るのは変かな? 「あの、志愛さん……」 「志愛でいいですよ?」 「えっ?呼び捨てダメだよ!」 「でも、さん付けは嫌です」 「じゃあ、志愛くん?」 「うーん?さんよりはいいかな?でも、やっぱ志愛がいいです」 「いきなり呼びにくいよ!」 「じゃあ、慣れたらでいいです。慣れたら呼び捨てしてくださいね」 「わ、わかった。」 承諾して、あ、違うこんな話したいんじゃない。と言葉にしようとすると、 「もし、謝ろとしてるなら謝らないでください。俺、嬉しかったって言ったでしょ?謝るのが必要な時って相手を傷つけた場合とかだし、寧ろ、昨日は楓さんの方が傷ついた顔をしてましたよ?」 志愛の言葉に驚いて彼を見る。 「俺が車椅子で側に来た時に凄く申しわけないって顔をしていて、泣きそうでした。だから、謝るのは俺かもしれないですね。」 「は?志愛は悪くないだろ?」 つい、勢いだった。勢いで彼の名前を呼び捨てにして、ハッと気付く。 「呼び捨て嬉しいです」 ニコッと微笑まれ、照れてしまった。 「楓さん、俺に謝らないで。」 真っ直ぐに見つめられ、「わかった。」と返事をした。 「楓さん、スマホですか?」 「えっ?そうだけど?」 「LINEしてます?」 「してる」 「じゃあ、LINE交換してください」 志愛はポケットからスマホを出す。 楓も慌ててスマホを出すと連絡先を交換した。 いつでも連絡してください。と志愛は微笑む。 新しい出会いがあると連絡交換とか当たり前のようにやるから、何も感じていたなかったのに、何故だろう、志愛との交換は凄く嬉しくて楓は社交辞令なしで「うん。志愛も連絡してきて」と言った。 ◆◆◆◆◆ 休憩中に志愛から写メつきのLINEがきた。 お店に猫がきた。と書いてあって、可愛い猫の写真。 楓も可愛いね猫と返事を返す。 「最近、マメにスマホ弄ってるけど、彼女出来た?」 同僚の男性に声をかけられた。 「えっ?そんなんじゃないですよ?」 「いやいや、お前、スマホ触ってるとき、めっちゃ楽しそうだぞ?ニヤニヤしてるし」 ニヤニヤ……俺、ニヤニヤしてんの? 他人に言われて気づいた。 志愛と出会って数週間経つ。LINE交換した日の夜、ちゃんと志愛からLINEがきた。 カフェオレ美味しかったです。また、来てくださいね。と書かれていて、 次はちゃんとした店でカフェオレ奢ってやるから!!と返事を返してしまった。 社交辞令ではない。本当に行きたいと思う。 だから、志愛を誘う言葉をずっと、悩んでいた。 普通にお茶しに行こうとかでもいいのだろうけど、妙に意識してしまうのだ。 それに、志愛の身体が心配だ。 遠出は大丈夫なのだろうか? 車椅子でも入れる喫茶店を検索して探してみると、少し遠出しなければならない場所ばかりだった。 花屋の近くにもファミレスはあったけれど、子供が騒ぐ所では落ち着かないし、なにより、楓は子供が苦手だ。 静かで落ち着ける場所…… 「お!!今度は真顔、どーした?」 「いや、落ち着いた喫茶店とかなかなか、近くにないなって思って」 「えっ?あるよ?」 「嘘、どこに?」 「俺んち」 「はい?」 「俺の両親がさ、喫茶店やってんだよ。落ち着いた感じでいいぞ?会社の近く」 「あったっけ?喫茶店?」 「うん、真裏に公園あるだろ?その近く。細々とやってるから常連客ばっかりで静かだぜ?」 そう言われて、ちょっと言ってみたいって思った。もし、雰囲気良かったら志愛を誘いたい。 「会社終わったら行ってみる?」 「いいのか?」 「いいよ。」 そう言って同僚の男性は笑う。 彼は楓と同じ年で、結構気が合った。 そして、会社が終わり、彼の両親が経営している喫茶店へと来た。 入り口が広い。 入り口が広くないと車椅子が通らない。 まずはそこは大事だ。 中へ入ると静かな雰囲気で、カウンター席とテーブル席があり、通路が結構広い。 「いらっしゃい」 感じ良さそうな年配の夫婦が楓をみて微笑む。 「サトルの友達なんだってね。こんにちは」 女性が先に挨拶をする。 楓も慌てて頭を下げた。 「はい!!こんにちは」 「楓くんだっけ?話をたまに聞くのよ」 ニコニコと微笑む女性は楓に喫茶店を教えてくれた同僚の母親で同僚の名前はサトル。 自分の話をしていたのかとサトルを見る。 「変な話はしてないぞ?」 「そうそう、気が合うとか色々と」 サトルの言葉に母親も続ける。 「カウンター席でいい?」 「うん」 サトルに促されてカウンター席に座る楓。 「何飲む?」 「カフェオレ」 楓がそういうと、サトルの父親がカップを取り注文のカフェオレを作ってくれる。 カフェオレが出てくるまでの短い間、店内を眺める。 通路広いから車椅子通れるよな? 騒がしい客は居なさそうだし。 店内にはゆっくり本を読む老人と。声のボリュームをおさえて話す上品そうなご婦人が2人。 のんびりとした雰囲気だ。 「おまたせ」 声がしたので、視線を戻す。 「ありがとうございます」 軽く会釈してカフェオレを1口飲む。 いい香りがして、甘さも適度で美味しい。 「美味しいです」 楓はそう言って微笑む。 「ありがとう」 サトルの父親もニコッと嬉しそうに微笑んだ。

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