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第2話
仕事終わりの夕方、楓は昨日の花屋に来ていた。中には入れずウロウロ。
あの男性の事が気になったのだ。
謝るべきだったかな?なんて、部屋に戻って悶々としていて、結局は自分の態度は悪かったのだからという考えに落ち着き、店まで来てしまった。
でも、入る勇気がない。
かれこれ、数10分は店の前をウロウロしている。
悩んでいても仕方ないので、さあ!入ろうかとした時に、「こんにちは」と声が聞こえた。
昨日の男性が今日はカウンターから出ており、楓の目の前に居た。
男性は昨日と同じくフンワリと楓に微笑みかける。
「こ、こんにちは」
慌てて返事を返す楓。
「昨日、来てくださいましたよね?」
覚えていたんだ……と思う反面、キツイ事言ったんだから当たり前か。なんて落ち込む。
「今日は、どんな花探しているんですか?」
男性に聞かれ、「今日は……その、」モゴモゴと口篭る。
謝りに来たんだろ?と自分に言い聞かせて、「昨日、その酔ってて……いや、酔ってるからっていうのは理由にもならないんだけど、その……キツイ事言ったみたいで……」
すみません?ごめんなさい?次に続ける言葉に悩んでいると、男性がクスクス笑い出した。
「あの、いま、時間ありますか?」
男性に言われて、頷く楓。
「母さん!!俺、休憩するから!」
楓が頷くと男性は奧に声をかけた。
「うん、いいよ。って、あれ?友達?」
奧から年配の女性が顔を出した。
楓を見て微笑む。
笑い方が男性に似てる。
楓はペコリと頭を下げた。
「公園行ってくる」
「わかった、いってらっしゃい」
ニコニコと微笑む女性。
「いきましょ?」
男性に促されて直ぐ近くの公園へ。
「何か飲みますか?」
自販機の前で男性に言われ、「あ、俺が奢るから」と財布を出す。
「いいですよ、誘ったの俺だし!俺がお金出します」
「だ、だめ!!絶対にだめ!!俺が出すから」
楓は全力で拒否。
その必死さに男性は負けてしまったのか笑いながら、「じゃあ、カフェオレ飲みたいです」と楓言う。
楓がカフェオレを自販機で買い渡すと、また、あのフンワリとした笑顔を見せる男性。
この笑い方好きだな。
「ありがとうございます」
「あ、いえ、どういたしまして」
楓も釣られて笑う。
「あの、俺昨日アナタに凄く嫌な態度取っちゃってそれで……」
「しえです。志すに愛で志愛」
「えっ?」
楓がキョトンとすると、
「俺の名前。アナタって言い方なんかくすぐったいから」
志愛……?
「女の子みたいな名前ですよね?結構、名前言うとからかわれます」
まるで楓の表情を読み取るような男性……、志愛の言葉に、
「あ、俺もそう。楓だから。いつも、からかわれるし、イメージじゃないって」と言った。
「楓……綺麗な名前なのにね。ピッタリですよ。」
ニコッと微笑む志愛。
彼も志愛って名前が似合うと思った。
「俺、ガサツだから、名前負けしてるって良く言われる……」
「ガサツじゃないですよ?だって、公園に来る時にさり気なく車道側に回ってくれたでしょ?あと、小さい側溝に気付いて、直ぐにそっちに回ったから」
店から数分の公園だけど、車も通っていたし、何より車椅子の車輪が落ちそうな側溝もあった。
塞げばいいのにって思った。
「優しいと思います。楓さんは」
ふわり……
まるで春に咲く花みたいにふんわりと笑う志愛。
可愛いと思ってしまった。
「優しくないよ……」
可愛くて直視出来ないから視線を外す。
「優しい奴が昨日みたいな態度取らないよ」
「……いいえ、優しいと思います。だって、気にしていたんでしょ?」
そうだけど……と楓は思った。気にしていたけど、優しければ初めっから意地悪な事言わない。
「俺、嬉しかったんです」
「は?」
楓は志愛の言葉にキョトンとする。
「あ、ドMとかじゃないですよ?俺を普通の人扱いしたから」
「……えっ?」
どういう意味?と楓は表情で言葉にする。
「花屋に来るお客さんはね、俺が車椅子だって知ってる人ばかりだから、お客さんの方が気を使ってくれるんです。俺が気を使わなきゃいけないのに。」
志愛の言葉にそれは人として自然な態度じゃないだろうか?と思う。
「何かやらかしても、怒られないし、逆に謝られちゃうし……だから、昨日楓さんが俺に怒ってくれて嬉しかった」
志愛はまた、あの笑顔を見せた。
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