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「痛いって言ったら怒るしやめるじゃん!」 はな六は枕を握りしめながら言い返した。 「痛いの忘れるくらい、気持ちよくしてよ。そうしてくれないなら出て行って!」 「あ?怒らぁしねぇよ。他の客と一緒にするないっ。俺ぁオメェを、腰が立たなくなるぐれぇ気持ちよくしてやらぁ」 サイトウははな六の中をこじる手を止めないまま、またぴしゃりとはな六の尻を叩いた。そしてぐいと腰骨を掴む。 「あ……ぁあ……っ!」 腹の中の一点をぐりぐりと押され、はな六は悶えた。 「ここが気持ちいいんか?」 「う……気持ち……っ、いいっ……」 「おぉ。正直でよろしい」 指が一本追加され、中を拡げられたのが傷に響いたが、いい所を三本の指でゆっくりと撫で擦られると、たちまち痛みは遠退いていった。 「は……ぁ……ぁ……サイトウ、サイトウ……!はやく、はやく中に入ってきて……」 勿体つけて撫で回してきた指達が、ちゅぽっと体内から抜けた。溢れだした体液がぽつぽつとシーツを打った。 「ほら」 伏せていた顔を上げると、つい今まではな六の中を掻き回していたサイトウの指が、目の前に差し出されていた。指先から透明な粘液が垂れ下がり、滴が糸を引きながら落ちていった。 「ほんっと、良く出来てるなぁ、オメェは」 濡れた指先が、はな六の上唇に触れた。はな六はサイトウの指をちろちろと舐めた。粘液をきれいに舐め取ってしまうと、サイトウの手ははな六の視界から消えた。肩甲骨の間を押され、はな六は腰を高く上げたまま土下座をするようにぺたりとうつ伏した。腰骨を熱い掌が包む。 「挿れるぜ」 ゆっくりと、サイトウがはな六の中に這入ってきた。入口から奥深くまで、みっしりとキツいくらいに充たされる。 「んんーっ」 枕に顔を埋めたまま鳴き声を上げると、サイトウがケケケと笑った。 「可愛いなぁ、オメェは。気持ちいいか?いいんか?」 「ん……気持ちいい。とろけちゃう……」 「ほっか。どんどんとろけちゃえよ。はな六よぉ、俺がいいだろ?な、俺とヤんのが一番良いだろ?」 「んっ、いい……いちばん、いいよ……サイトウ、もっと突いて、気持ちよくして……」 「いいぜぇ、はな六ぅ。ガンガンいくから覚悟しろよ」 サイトウの動きが激しくなる。はな六は快感の奔流に呑まれ、喘ぎ、泣き叫び、身をよじった。正気を喪いそうになりながらも、後孔から溢れ出した体液を、自分で性器に塗り込めて、必死に擦った。膝が崩れ落ちないよう踏ん張り、サイトウの一物を搾り上げるようと腹に力を込めた。 「あぁ、ヤベェ。はな六、出すぞ……」 一際強く突き上げられ、頭の中にパッと白い火花が散る。はな六はくたっと前のめりに倒れた。サイトウの性器が抜けた途端、ごぼりと多量の体液が迸るのを感じたきり、はな六は気を喪った。 「はな六よぉ。今日は何人とヤった?」 二度目の交接のあと、二人で毛布と掛け布団にくるまり、うとうとしている最中に、サイトウが言った。 「んー、五人、かな」 はな六は過少報告した。九時になる頃にはほとんど客足は疎らになってしまっていたが、六時半から八時の間には、次から次へと客が来たので、流れ作業のようにはな六は受け入れた。一人につき持ち時間は二十分だが、ほとんどの客は、一度射精すればさっさと帰ってしまう。はな六はいつも、五人まで数えて、あとは数えるのを止める。何人の客を取ったのかは、その日の取り分をお婆さんから貰って初めて知ることができる。だが、はな六はわざわざ計算しない。一日の終わりに受け取る紙幣の束を、数えもしないで財布に仕舞った。 「オメェ、相当な淫乱だいな」 はな六はムッと頬を膨らませた。どいつもこいつも、そう言ってはな六を馬鹿にするのだ。だがサイトウは、後ろを向こうとしたはな六を捕まえ、無理矢理にキスをした。 「そんなにヤッても、まだ俺様が欲しかったんか。可愛い奴め」 サイトウははな六を仰向けに転がし、両手をシーツに押さえつけた。脚の間に割り込み、腰を押し付けてくる。もう二度もしたというのに、サイトウの一物は硬く、熱を帯びていた。サイトウこそ、他人のことなど言えないほどの性豪だ。はな六は、サイトウが首筋や鎖骨をねぶるのを好きにさせながら、ベッドの天蓋を見上げた。 「ねぇ、サイトウ。何でサイトウはおれを選んだの?おれが淫乱だから?」 「あ?選んでねぇよ」 思いもよらない回答。はな六は身体を起こした。 「選んでない?」 「おう、選んでねぇ」 胸乳を交互に吸い上げてから、サイトウははな六を寝かせ、性器をはな六の体内に押し込み、そしてはな六の頭の両脇に手をついた。 「正月によ、稲荷大明神様に一万円、お賽銭くれて、お願いしたんだ。今年こそいい出逢いがありますようにってな。そしたら、オメェに出逢った。大明神様の御利益だな」 なんでも、サイトウは四週間前、商工会の慰安旅行でこの街に遊びに来たのだそうだ。そして夜、一人でこの店を利用したのだという。 「それで、おれを気に入ったってわけ?」 「まぁ、気に入ったっつえば気に入ったんだけどよ。そうじゃねぇ」 「どういうこと?」 サイトウはゆっくりと腰を使いながら、いきさつを語った。サイトウがただの客として初めてはな六を抱いた時、はな六はまだ長い眠りの最中にいた。ところが、いざサイトウがはな六の中に挿入しようとすると、はな六は眠ったまま自ら脚を開き、サイトウを迎え入れたというのだ。そして身体を繋げてから、サイトウが口付けると、はな六は薄く目を開けたのだという。サイトウは、確かにはな六と目が合ったと感じた。だが、はな六はすぐに目を閉じてしまったらしい。もちろん、はな六には全く覚えがない。 「その時、俺はわかったんだよ。きっとコイツが、稲荷大明神様が俺の為に用意してくれた、運命の相手だってな。そんで、次の週とまた次の週に逢いに来るから、その間にコイツが目ぇ覚ましたら、コイツは俺のもんだって、階下(した)の婆さんに話ぃつけたんだ」 「へぇ……」 はな六の身体は、充電してさえあれば、休眠状態でも少し動くようになっている。破損防止用の仕掛けだ。眠っていても、側に男の匂いを感じれば、素直に股を開くように出来ているのである。 「サイトウって、ずいぶんロマンチックなんだねぇ」 「は、そんなことねぇよ。ただよ、俺は思うんだよ。選ぶってことは、都合悪くなったら棄てるってことと一緒じゃねぇかってな。そんなの淋しいだろ?」 「んー」 「だから俺は、俺の嫁になる奴ぁ選ばねぇことにしたんだ。選ばねぇ代わりに、棄てもしねぇ。そう誓ったら、ほら。こんなかわいこちゃんを、大明神様はくれたじゃねぇか」 「んー?」 サイトウははな六の首筋に顔を埋め、嘆息した。 「あー、ヤベッ。マジで気持ちいいわ。もうダメだ。俺ぁもう、オメェしか抱けねぇよぉ」 「そんな、大袈裟な」 はな六はサイトウのゴツゴツと骨の浮き出た背中を、優しく撫でた。 サイトウは翌朝まではな六の所に居た。帰り際、サイトウは言った。 「水曜までには俺んとこ来いよ。新しいお布団揃えて待っててやるから」 「んー、善処します」 はな六は曖昧な笑顔で手を振った。 サイトウを見送ってから、はな六は予約していた表通りの美容院に行った。街に美容院は沢山あるが、アンドロイドの客を受け入れてくれるのは、その店たった一件だけだった。以前はそういう店は何軒もあったのに、はな六が寝ていた五年の間に閉店してしまったのだ。街を歩いていると、その理由がわかる。行き交う人々のうち、三割くらいが見るからにアンドロイドだった。はな六が生まれた頃には、すでに人間とアンドロイドの人口比は七対三で、それは今も変わらない。世界条約と法律により、一定になるよう管理されているからだ。だが二十年前は、往来の人々はほとんど人間に見えた。というのは、かつてはアンドロイドのほとんどが人間に似せた機体だったということなのだ。アンドロイドは人間から解放された途端に、人間であることを辞め始めた。徐々にアンドロイドは動物を模したマスコット型の機体に置き換わっていったが、はな六の寝ていた五年間にその変化は急速に進んでいた。はな六のように人間そっくりな機体を持つものは、今やすっかり少数派なのである。 抜けてしまったぶんの髪を植毛してもらい、パーマをかけ、整えてもらった。その間、はな六は雑誌も読まずに、目の前の鏡を見続けた。西洋人の少女のような、丸っこくて彫りの深いはっきりとした顔立ちに、黄色い肌、黒い髪、茶色の瞳という、典型的な東洋人の特徴を持っている、はな六の顔。はな六の元の飼い主だったお祖父さんの好み通りに、カスタマイズされた顔貌だった。なのに、お祖父さんは、自分好みに作ったはな六のことを、少しも気に入ってはいなかったように、はな六には思えた。毎日毎晩、はな六に怒鳴り散らしていた。お祖父さんが"ふしだら"とか"恥さらし"などと呼んだ、どんな男にでも股を開きたがる、はな六の特殊なセクサロイドとしての性質だって、お祖父さんのオーダーによって搭載された機能なのに、お祖父さんを苛立たせただけだった。自分で好きなように選んだ結果だから、余計に気に入らなかったのだろうか?思ったのと違うと、腹が立ったのか……。 はな六を担当した美容師は、ツルッとしたピンク色の機体のアンドロイドだった。上半身は胴体に頭と長い手が着いていて、下半身には事務椅子のように真っ直ぐな一本足。床に接する部分が五本の指状に分かれていた。美容師は世間話をしながら、はな六の髪に鋏を入れた。カットしはじめてから三十分ほどで、髪はカタログ通りの、ふわふわのフェザーマッシュに仕上がった。襟足をさっぱりと刈上げてもらったおかげで、はな六の希望通り、少し男の子っぽさが増した。

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