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第1話 序
それは、昼食のためにストリートを歩いていた時だった。
ーしくじった---。ー
尾行には、十分に気をつけていたハズだった。オフィスを出て、三つ目の交差点で、ひとりの老婦人が道を訊いてきた。
ご婦人には親切にしなければいけないと教えられてきた。彼女は地図を広げて、イーストサイドのカフェに行くのだ、と言った。
彼女に道を教えて、振り向いた時、私は5人の男に囲まれていた。銃とナイフを突きつけられて---。
「一緒に来てもらおうか。坊や(ベイビー)。」
私は黒のバンに押し込められた。手錠をかけられ、アイマスクをされ、口にガムテープを貼られた。私は、死を覚悟した。
「降りな。」
そこは、ニューヨーク、ブルックリンの古びた倉庫だった。カビ臭いコンクリートの壁は崩れかけ、鉄の扉は、すっかり錆びて、赤茶けた欠片が、そこら中に散乱していた。
薄暗い空間。私は引き摺り降ろされ、真ん中にぽつんと置かれた椅子に括りつけられた。
「観念しな、坊や(ベイビー)ここには誰も来ねぇ。」
リーダーらしき男が、ラテン訛りのひどい発音で脅しをかけた。
「例のものは、どこへ隠した。大人しく吐けば、すぐに楽にしてやるぜ。」
「知らんな。なんのことだ。」
口を割ろうと割るまいと渡されるのは天国行きの片道切符。お決まりの脅しになる私ではない。
「痛い目を見てえのかい。」
ひとりが私の腹を蹴りあげてきた。膝が鳩尾に食い込む。胃液が喉を突いた。顔を殴られる。骨が折れるほどではない。喋れなくなると困るからだろう。唇が切れた。口の中に鉄の味が広がる。
「脅しても、無駄だ。私は、知らない。」
男達の怒りを焚き付けたらしい。二発、三発とボディに拳を突き立ててくる。気が遠くなってきた。
男のひとりが私の髪を鷲掴みにした。力任せに引いて顎を上げさせた。
---早く殺せ。どうせお前達の欲しい情報は手に入らない。
「へぇ、こいつは結構な美人さんじゃねぇか。」
ひとりの男が、私の顔を覗き込んで言った。
「このまま殺っちまうのは、勿体ねぇなぁ---。」
ナイフが胸元を滑る。シャツが、鋭利な切っ先に引き裂かれた。
「キレイな肌してるじゃねぇか---。」
目の前で如何にも下品に舌舐めずりをされて、悪い気分が余計悪くなった。汚なあらしい指が皮膚に触れて、鳥肌が立った。
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