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第40話 sideディット

視界が滲んで、輪郭がぼやける。頭の片隅では、そんな筈はないと誰かが叫んでいる。 そんな声を否定するように、震える手が無自覚に、彼の頬に伸びる。 そこには、確かに生きている人間の温もりがあった。少しかさついた、それでも張りのある肌は、確かにそこに、彼が存在している事を実感させてくれる。 「ディット」と優しく、愛おし気に、俺の名前を繰り返し呼ぶ彼の声に、心が震える。 「っ…あ、る…ある…アルっ!」 勢いよく抱きしめると、少しよろけながらも、しっかりと受け止めてくれる。 まだ、幼かった彼は、大の男を受け止められるほど、成長していた。 これは、夢だろうか。ぼんやりとそんな事が頭を掠めるが、しかし、確かにそこに、アルは立っているし、体温も感じる。 もう二度と会う事はないのだと、今の今まで思っていたアルが、確かにここに立っている。 これは、夢ではない。 「終わったんだ、戦争が。やっと終わったんだよ」 そう震える声で呟くように言ったアルは、背中を掻くように、強く抱きしめ返してくれる。 「ずっと、会いたかった」 あの頃の面影を残す声が、身体にスッと入ってくる。 「…あぁ。俺もだよ」 もう一度、しっかりと見た彼の瞳は、夕暮れの太陽の光を反射して、キラキラと炎を燃やしていた。

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