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第39話 sideディット
彼は元気にしているだろうか。
生きているだろうか。片足しかない彼が、義足を付けた所で、そのハンディギャップは大きいし、そう簡単には生き残れないのも事実だ。
何の音沙汰もなく、情報も得られないので、心配になるが、もうあそこには戻ろうとは思わなかった。
彼と俺では、生きている世界が違うのだ。
激動の中を生きる彼と温湯で生きる俺、もう二度と同じ花を見ることはない。
ーーコンコンッ
花に思いを馳せていると、もう診察の時間は過ぎたのに、誰かがドアをノックしているのが聞こえた。
また、ご近所さんが何か持ってきてくれたのか、もしや急患かと思いながら、気の抜けた返事をして、玄関に向かう。
「はいはい、どちら様?」
ドアを開けると、強い風が吹いて、思わず目を瞑ってしまった。
「…ディット。」
それは、聞き覚えのある声だった。しかし、記憶にあるあの声よりも、少し低い。
鼓動が早鐘を打つ。そんな筈はない。だって彼は戦場に。
処理しきれない現状にそんな筈はないと、恐る恐る目を開ける。
目に映ったのは、褐色の肌。身長が伸び、あの頃よりも大人びたルビーの瞳が、優しげに細められていた。
「ディット、会いに来たよ、ディット。」
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