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第38話 sideディット

あれから幾年かの月日が過ぎた。 任期を終えた俺は、母国の片田舎で開業医を始め、元々医者の居なかった村では、何かと重宝されている。 この山と湖に囲まれた小さい村は、あの頃の喧騒を夢と思わせるほど穏やかだった。 もう、あそこには戻る気はない。 ブラウにも、組織にも散々引き留められたが、あの少年の事が無くとも、元よりそのつもりだった。 覚悟もなしに興味本位で飛んだ俺には、あまりにも過酷すぎた。 未だに、あの頃のことを悪夢に見る。 一つの経験としては良かったかもしれないが、はっきり言ってしまえば、あまり身になるものではなかった。 机でカルテを片付けていると、開けっ放しにしていた窓から心地好い風が吹き込んでくる。 風に誘われるように外を見ると、小さい花々が盛りを迎えていた。 いつだったか、患者の子どもが、植えていったやつだ。 「先生、寂しそうねだから、お花植えてあげる!」そう言った少女は、暇を見つけては一生懸命に花の世話をしていた。 もうそんな季節かと、ぼんやり風に揺れる花たちを見ていると、いつも彼が思い起こされる。 何も言わずに出て行ってしまった彼は、その後、風の噂で反政府軍にいると聞いたが、あそこから遠く離れたここでは、真偽は定かではないし、あまり詳細な知らせも入ってこない。 未だにあそこに留まって、身を粉にしているブラウとは、稀に連絡を取るが、お互いあまりあの時のことには触れない。

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