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第37話

強く強く抱きしめてくる体を、もっと強い力で抱きしめ返す。 戻ろう。戦場に。 黒と白、それから赤以外の色があると教えてやりたいのだ。 本当の世界はこんなにも美しいのだと。 彼が教えてくれた様に、俺も誰かに教えてやりたい。 戦場に戻っても、生きたいと思う俺を、みんなは許してくれるだろうか。 まだ、みんなの所には行けない。 以前の俺が、俺が殺したみんなが知らない、こんなに美しい世界を、今もあそこにいる全ての仲間たちに、教えてあげたい。 周りを見渡せと。足元を見ろと。お互いを見ろと。自分を見ろと。 こんなにも色に溢れているのに、どうして気づかないのだと。 こんなにも美しいのに、どうして何も見えなくしてしまうのだと。 俺は、まだ見続けたい。世界の様々な色を見てみたい。 そして、赤を、紅を、アフマルを、好きになりたい。 だから、まだ、みんなの所には行けない。みんなの分まで、色を見続けていたい。 その時まで、もう少し待っていてくれるだろうか。 俺は、生きたい。 だから戻るよ。 ーーside ディットーー 次の日、アルのベッドは空になっていた。 温もりを感じないそれは、夜中の内に一言も告げることなく出て行ってしまった事を表していた。 その後の消息は掴めず、任期終了と共に俺は本国へ帰った。

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