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第8話

   真夜中。  青は、目を覚ました。  月明かりが差し込んで、部屋の中は青白く浮かび上がっている。  体をゆっくりと起こすと、張られた左頬に手を添える。じん。と疼くような痛みが甦り、青は、何故か暖かいと感じた。  人に触れたのも触れられたのも、物心着いてから初めてだった。  知らずに生きてきた。  今日まで。    なんと侘しい人生だったか。  なんと寂しい人間だったか。  そう、思った。  それと同時に、新羅の普段見せない感情にありがたいと感じた。  冷たいと思っていたのは自分が人を遠ざけていたせいで、新羅は忠実にそれを守っていたに過ぎない事に気がついた。  温かいと、再び感じたら、  頬を滑り落ちる体液が一滴。  人の温もりなど、感じた事がなかった己に、人の心を教えてくれた。  新羅は、冷酷な男などではなかった。  不器用なのだ。  もともと、表情もあまり表に出さない男だからこそ、あの平手打ちには意味があった。  重かった。  だが、苦しくはない。  嬉しかったのだ。    そうして、また、ゆっくりと横になり頬さする。  ありがとう。新羅。  青は、心の中でそう呟いて再び眠りについた。

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