12 / 17

第12話

「ちょっと出掛けてきます。」 青は、玄関でナイキの白のシューズを履きながら家の中に話しかけた。 「ちょ、坊!どこに?!」 「新羅さん呼んで来ますんで!」 若い衆が、慌てて新羅と連絡を取ろうと走りだそうとする。 「あ、大丈夫ですよ。近くの図書館に行くだけだから。」 若い衆を制して、にっこり微笑む。 「じゃあ、行ってきます。」 春の陽気に、足取りも軽く青は浮き足だっていた。 自分で何かをしようと思ったのは初めてかもしれない。 それが、小さな調べ事でも目的があって出かけるというのはそれだけで意欲が出る。 しかも、いつもなら新羅か組の者のお付きが付いて回るが、今日は1人だ。 自由というには、大袈裟かもしれないが、かのローマの休日のオードリーの気分はこんな風かもしれないなどと思いながら、図書館までの道のりを歩いた。 図書館では、自分の事を調べにきたのに、ついついたくさんの書籍に目移りして、いろいろと読みふけってしまう。 サスペンスやアドベンチャー、その世界にどっぷりと入れる読み物が大好きだったと思い出す。 読みかけの本を何冊か借りて、そうだ!調べもの!と、思った頃には日は傾きかけ、図書館の中をオレンジ色に染める。 そして、閉館のアナウンス。 また、来ればいいか。と、青は図書館を後にする。 最寄り駅でバスを待つ間、先程借りた本の続きを読む。 その時だった。 ぞくり。 と、背筋が粟立ち手足の指先が震え出す。呼吸が乱れ額に汗が吹き出す。 その場に立っていられなくて膝をついた。 な、なに?!これ?! か、からだがあつい?! いきが、くるしい……? 初めての発情であった。 ど、どうしよう?? どうしたら……? すると、辺りの人々がざわつきはじめる。 「誰か、発情してない?」 「どこだ?オメガだろ?」 「すげー、フェロモンだな。」 発情?! これが?! 動けない……。 だめ……だ。 このまま……じゃ……。

ともだちにシェアしよう!