1 / 22

第1話

「うっ……んぅっ」  せり上がるような感覚に、低い呻きを瑛士が漏らすと、目の前にいる男は口角を綺麗に上げ、「勃ってる。体は正直だな」と愉しそうに呟いた。 「……アンタが盛ったクスリのせいだ」  精一杯の虚勢を張り、低い声音で言い返すけれど、「へえ」と答えた男に瑛士の言葉を取り合う様子はない。そればかりか、引き抜きかけた細い管を、再び尿道の深い場所へと躊躇いもせずに差し込んだ。 「あっ、ああっ!」  情けない声が鼓膜を揺らし、胸が激しく上下する。  四肢を拘束している鎖が、無機質な音を響かせた。 (どうして俺が……こんな目に)   悔しさの余り目眩がする。  本来の自分はする側であって、される側では決して無いから、今の状態は瑛士にとって屈辱以外の何者でもない。 「いい声だ。男を誘う」 「てめっ、馬鹿にしてんの……やっ、やめろ!」  喉を鳴らして笑った男が管を上下に動かしはじめ、その先端がある一点を押した刹那……悪態を吐く余裕も削がれ、瑛士は体を痙攣させた。 「うっ……くぅっ」 「ゆっくりイってる。ほら、見ろ」  男が手にした管の端を、目の前まで近づけてくる。悔しくて顔を横へ背ければ、ポタリと頬へと液体が垂れ、それが何かが分かっているから、絶望に似た気持ちが心を支配した。  こんな醜態を晒すなんて、死んだ方がマシだと思う。 「綺麗な顔が汚れたな。これはこれで倒錯的だが」  淡々と話す男の顔は、優しげな笑みを浮かべてはいるが瞳がまるで笑っておらず、それが一層瑛士の背筋を冷たくさせた。  二十歳を過ぎてから、喧嘩では負ける事のなかった自分を簡単に陥れ、こんなことをしてくるのだから、腕はかなり立つはずだ。      だが、それにも関わらず彼の所作は紳士的で、医療行為をする医師のような冷静さをみせていた。 (そりゃ、ホンモノだもんな)  ぼんやりしてきた意識の中で、そんな事を考えていると、ザラリと頬を濡らす感触に柄にもなく狼狽える。 「なっ、なにを……」  そこを這うのが男の舌だと気づいても、いままでのように暴れたり、噛みついたりはできなかった。  どうしてなのか、自分自身にも分からない。否、分かりたくないだけなのだが、男に従うふりをして、油断を誘う策なのだと瑛士は自分に言い聞かせ、諦めたように瞼を閉じ、無理矢理視界を遮断した。

ともだちにシェアしよう!