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第1話
「うっ……んぅっ」
せり上がるような感覚に、低い呻きを瑛士が漏らすと、目の前にいる男は口角を綺麗に上げ、「勃ってる。体は正直だな」と愉しそうに呟いた。
「……アンタが盛ったクスリのせいだ」
精一杯の虚勢を張り、低い声音で言い返すけれど、「へえ」と答えた男に瑛士の言葉を取り合う様子はない。そればかりか、引き抜きかけた細い管を、再び尿道の深い場所へと躊躇いもせずに差し込んだ。
「あっ、ああっ!」
情けない声が鼓膜を揺らし、胸が激しく上下する。
四肢を拘束している鎖が、無機質な音を響かせた。
(どうして俺が……こんな目に)
悔しさの余り目眩がする。
本来の自分はする側であって、される側では決して無いから、今の状態は瑛士にとって屈辱以外の何者でもない。
「いい声だ。男を誘う」
「てめっ、馬鹿にしてんの……やっ、やめろ!」
喉を鳴らして笑った男が管を上下に動かしはじめ、その先端がある一点を押した刹那……悪態を吐く余裕も削がれ、瑛士は体を痙攣させた。
「うっ……くぅっ」
「ゆっくりイってる。ほら、見ろ」
男が手にした管の端を、目の前まで近づけてくる。悔しくて顔を横へ背ければ、ポタリと頬へと液体が垂れ、それが何かが分かっているから、絶望に似た気持ちが心を支配した。
こんな醜態を晒すなんて、死んだ方がマシだと思う。
「綺麗な顔が汚れたな。これはこれで倒錯的だが」
淡々と話す男の顔は、優しげな笑みを浮かべてはいるが瞳がまるで笑っておらず、それが一層瑛士の背筋を冷たくさせた。
二十歳を過ぎてから、喧嘩では負ける事のなかった自分を簡単に陥れ、こんなことをしてくるのだから、腕はかなり立つはずだ。
だが、それにも関わらず彼の所作は紳士的で、医療行為をする医師のような冷静さをみせていた。
(そりゃ、ホンモノだもんな)
ぼんやりしてきた意識の中で、そんな事を考えていると、ザラリと頬を濡らす感触に柄にもなく狼狽える。
「なっ、なにを……」
そこを這うのが男の舌だと気づいても、いままでのように暴れたり、噛みついたりはできなかった。
どうしてなのか、自分自身にも分からない。否、分かりたくないだけなのだが、男に従うふりをして、油断を誘う策なのだと瑛士は自分に言い聞かせ、諦めたように瞼を閉じ、無理矢理視界を遮断した。
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