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第2話

 ***  深夜零時を回っても尚、都会の夜は眠らない。  けれど、路地を一つ入っただけで、喧騒は細く届くけれども辺りは闇に包まれて……機会をうかがう為に紛れる場所としては、最適であるはずだった。  数日間マークし続けた甲斐があり、ようやく一人になった標的を視界へと入れ、瑛士は口角を僅かにあげてゆっくり舌なめずりをする。少し先には外灯の少ない路地があり、前々からそこで行動を起こす計画をたてていた。 〝平穏な暮らしに戻れた〟などと考えているであろう標的が、恐怖に顔を歪める姿を想像するだけで、自然と気分は高揚する。  だが、そんな瑛士の表情は、次の瞬間に一変した。 「お疲れさまです。今日もいると思っていました」  背後から……突然響いた低音と、同時に首へと回された腕に、相手の方が上手だったと認めざるを得なくなる。  「(あるじ)を囮にしたって訳か。酷い使用人だな」  平静を装いながらも、内心はかなり動揺していた。なにせ、それなりの修羅場を潜り抜けてきた自分でさえ、男の気配を全く感じることができなかったのだ。 「彼が一人になる機会を狙っているのは分かってましたから。貴方も、罠があるリスクを承知で、毎日尾けていたんでしょう? 」  囁くように紡がれる言葉は、感情がまるでこもっておらず、それが余計に底の知れない恐怖にも似た感情を生む。  だが、この状況をひっくり返す手段が無い訳ではないから、瑛士は口角をゆっくり引き上げ、左腕を僅かに動かす。 (甘いな)  背後は取られてしまっているが、腕は自由に動かせた。今はこちらが不利に見えるが、先日自分が彼に負わせた左腕の傷が既に癒えているわけもないから、先手は取られてしまったけれど、最終的にはこちらが有利だ。  男が仲間を配備している可能性も無くはないが、彼の性格から、その確率はかなり低いと言えるだろう。 「呑気なもんだな。自分が守られてんのも知らねぇで」  路地の向こう、自分と男との攻防も知らず一人で歩く、凡庸を絵に描いたような青年を瞳に映し、どうしようもない苛立ちを覚え瑛士は奥歯を噛みしめた。

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