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第3話

 ジャケットの内ポケットへと忍ばせてある銃を使えば、何もせずただ守られるだけの、価値もない青年を葬り去ることができるが、それだけでは飽き足らない。 「滅茶苦茶にしてやりてぇ」 「残念ながらそれは無理です。私がさせません」  冷静な返事と共に、堅く鋭利な質感を持つ何かが腰へと突きつけられた。 「刺せるのか?」 「大人しく従えば危害は加えません。ただ、貴方が胸にしまった銃を使おうとするなら、刺すでしょうね」 「そうか、ならしょうがない」  淡々と紡がれる言葉に瑛士の苛立ちは更に募るが、殊更(ことさら)普通に振る舞うことで、冷静さを取り戻そうとする。従うと見せかけておけば、必ず隙が生まれるはずだ。 「俺の負けだ。どうにでもしろ」  そう告げたのは、もちろん本心などではなく、彼の油断を生む為だったはずなのに……刹那首へと掛かった腕がギリギリとそこを締め付けはじめ、予想外の彼の行動に方針転換を余儀なくされる。 「てめぇっ、なにす……」 「甘いな。貴方は興味に負けて、唯一の勝機を逃した。私と話なんかしてないで、すぐに逃げるか銃を抜くべきだった。私が怪我をしていることは、貴方の満身に繋がりはしても、有利になる理由にはならない」 「なに言ってんだ。俺は、お前になんか……興味ない」  振り払おうとするよりも早く、シャツの裾をたくしあげられ、腰の辺りにチクリと何かが刺さったような感覚がした。 「そうですか、残念です。ですがどのみち逃がすつもりはありません」  少しも残念そうに聞こえない声が鼓膜を揺らすけれど、体から急に力が抜けて言葉を返すこともできない。 「……ちくしょう、ゆるさな……」 「大丈夫、ただの麻酔薬だから」  膝から崩れた体を支え、そう告げてくる低音は……先ほどまでとは違う響きを帯びていたが、そこに気づくことはできないまま瑛士の意識は遠のいていく。 「……瑛士」  完全に途切れる寸前、自分の名前を呼ぶ彼の声が聞こえたような気がしたが……朦朧とした意識の中、それが夢か現なのかは判断がつかなかった。

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