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第22話

「あ、ぐっ、あうぅっ!」 「もうタチは無理かもな……させるつもりもないけど」  過ぎた快楽に思考が削がれ、頭の中が朦朧としてくる。無意識に手を股間へと伸ばすが、すぐに清高に叩き落とされ、頭に血が上った瑛士は思いつくだけの悪態をついた。 「そう怒るな。別に意地悪をしてる訳じゃない。イきたいならそう言えばいい」  非情ともとれる彼の言葉が、素直になれない瑛士のための愛情表現だということにも気づけない。 『……愛してる』  どれくらい時が過ぎた頃かは定かではないけれど、切れ切れに残る記憶の中、そう清高が囁いたような気がしたのは……都合のいい幻聴だろうか? 結局、それを確かめることもできずに、数回空で極めた瑛士は、「ちくしょう」と、唸りながら意識を落としてしまったけれど。 *** 「おはよう」 「……はよう」  ダイニングのドアを開くと、部屋中へと充満しているコーヒーの香りがふわりと鼻腔を擽る。キッチンへと立っているのは、きっちりと背広を着ている清高で、瑛士がダイニングテーブルの椅子へ腰を降ろすと、ほどなくカップが差し出された。 「いただきます」  部屋へと連れてこられて、ひと月ほどが過ぎている。早朝に繰り返されるこのやりとりも、すでに日常となりつつあった。 「なあ……清高」  コーヒーを一口飲んでから、瑛士が彼に話しかけると、「なんだ? 」と答えた清高が前の椅子へと優雅に腰を下ろす。 「そろそろ外の空気が吸いたい」 「……そうか」  少し考えるようなそぶりをしてから、一言答え、清高は椅子から立ち上がった。そして、一旦部屋を後にすると、少ししてから何かを手に持ち戻ってくる。 「持っていけ。この部屋の鍵だ」  テーブルの上に差し出されたのは一本の鍵だった。  聞けば、ひと月前……瑛士が賭に勝った時から、渡すつもりでいたらしい。  あの時、目を覚ました瑛士は賭に勝ったことを知らされて、少しの間考えはしたが、すぐに自分の中で結論をだした。 『やっぱ行くとこないから、当分ここにいる』  何故そんなことを言ったのか、その答えは明白だ。命令されて居るのではなく、瑛士の意志で居るということが、どんな意味を持っているのかを分からないような相手ではない。  それに加えてこの一か月、毎日のように彼の灼熱を抵抗もなく受け止め続けているのだから、それだけでも瑛士の想いは容易に推測できるだろう。けれど、今のところ、それを清高に直接伝えるつもりはない。 「ありがとう」  鍵を手に取り礼を告げると、「熱でもあるのか?」と笑われた。  彼は瑛士を信用することで、新たな関係を築こうとしている。  ならば、その信頼に応えることが、今の瑛士のやるべきことだ。 「悪さはするな。今日の帰りは十一時過ぎだから、それまでには帰ってこい」  横へと立った清高に、顎を取られて啄むだけのキスを交わす。  唇が少し離れたところで「了解」と、言葉を返せば、清高の顔がほんの僅かだが安堵したように和らいだ。                                 END

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