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第8話 αのキミとΩの僕 2
「いやだ。俺は女を好きになって付き合ってプロポーズして家庭を持って子を授かりたいんだ。男なんか好きじゃない」
ましてαなんて絶対お断りだ。
「好きじゃないって、そんなのわっかんねーだろ。だいたいお前、女だって好きになったことあんのかよ」
「無い。無いけれど、気に入っている女ならいる。よって男しかいないαやΩに俺は興味すらない」
「俺のを泣きながら欲しがってたやつが言うかソレ」
「アレは不可抗力と言うやつだ」
ちょうどその時、俺のスマホのプッシュ通知音が鳴る。
「このタイミングでライブ配信とは、さすがえれふぁんちゃん」
「えれふぁんちゃん?」
「そうだ。俺の嫁だ、これを観ろ」
ネットアイドルのえれふぁんちゃん。長い間引き篭っていた間に見つけた俺の天使。
緊急の生配信とは、また小さなギザギザ円錐の苺味のチョコにレアなハート型でも見つけたのか。それとも6つ入りのチョココーティングアイスの中に星型のものでも入っていた報告だろうか・・・。
「気に入ってるだけで嫁にすんなよ」
俺の横に腰を下ろした綾木がスマホを覗き込んでくる。
投稿型動画サイトの中だけで超絶人気を誇るネットアイドルのえれふぁんちゃんは美しくて照れ屋でキュート。
えれふぁんちゃんと付き合えるなんて思っていないけれど、こんな女性を好きになってみたい。
『皆さまぁ。緊急配信ごめんなさい!でも今日はお菓子のレア報告じゃないよ♡』
画面の中で、えれふぁんちゃんが両手を顔の横に広げる。
『実はね、えれふぁん、みんなとお別れしなきゃなの・・・』
お別れ・・・?そうか、もうえれふぁんちゃんも25歳だからな・・・アイドルとしてやって行くのはキツくなってきたんだろうな。
『みんなは運命って信じる? えれふぁんね、運命の番、に出逢っちゃったの♡』
運命。そうかそうか、えれふぁんちゃんは運命の番に出逢って幸せに・・・
・・・って!待て待て待てぇぇい!運命の番に出逢ったという事は、えれふぁんはαかΩのどちらかという事。つまり、えれふぁんは
「茜の気に入ってる子って男だったんだ~。あれっでもαやΩに興味すら無いんじゃなかったっけ~」
横からニヤけ顔で見てくる綾木。
「俺より若ければ別に、何でも」
えれふぁんちゃんを完全にβの女性だと思っていた俺は真実を受け入れ、それでも彼女(彼)への好意を否定したくなくて咄嗟に反論してしまう。
『実はね、えれふぁん37歳のΩなの。結婚願望有り寄りの有り有りだったの・・・今まで嘘ついてひとまわりもサバ読んでてごめんなさいっ!』
・・・・・・・・・もう何も言うまい。
『それでね、最後だからお詫びにえれふぁんのセクシーショットをご用意させて頂きました♡じゃん!』
と言ってカメラの前に出して来たのは、下着なのか水着なのかよくわからない面積の小さい布切れ一枚を身に付けたえれふぁんの写真。
それを見て
「おわ、めっちゃモッコリしてんじゃん。えれふぁんΩなのに男らしー。茜は完敗だな」
綾木のニヤけ顔がパワーアップする。
『じゃあ、みんな、今までほんとにどうもありがとう♡えれふぁん、幸せになります!みんなも素敵なパートナーと出逢えるといいな♡♡バイバイっ!』
スマホの画面は暗転して配信は終了。
なんて呆気ない終わりと去り方なんだ・・・。えれふぁんちゃん・・・。
俺はショックを受け過ぎ虚しい気持ちで、テーブルにスマホを伏せて置く。
「女でもなかったし若くもなかったけどさ。とにかくえれふぁんちゃんのエレファン、立派だったよな。元気出せよ」
肩を落とす俺の背中をポンポンと叩き、綾木は慰めてくれる。
「もういい。暫く独りにしてくれ・・・っ」
立ち上がり寝室へ向かおうとする俺は、手を掴まれソファにもう一度座らされてしまう。
と、膝の上に跨って来た綾木にぎゅっと抱き締められ、俺は背もたれと彼に埋もれてしまう。
「何してる」
「ほんと にぶちんだな、お前。慰めてんの。って見せかけて茜の弱ってるトコにつけ込んでんの」
「・・・なぜだ」
俺の弱っているところにつけ込んでどうなる。報酬アップでも狙っているのか?
これも仕事のうち、か?
「友達じゃなく、茜の恋人になりたい」
「はあ? またそれか。一体なぜ」
「茜が好きだからに決まってんだろ」
「は・・・? す、」
好き!?
綾木の言葉に、背筋をゾクゾクとした感覚が駆け上がり、それは熱になって項で留まる。
頬を両手で包まれ上を向かせられると、熱っぽい綾木の瞳に吸い込まれそうなほど見つめられて
ああ このαに体の隅々までを貪られたい
と本能が働き出す。
「茜の匂い、あっま・・・」
「あや、き。マズイ、このままじゃ・・・」
「また発情する?」
「そう、だ。だから、離れて・・・くれ」
「離れて欲しく無いから抵抗しねんだろ? 茜、もう匂い出てるし」
綾木の唇が近付き、俺は金縛りにあったように動けなくなる。
こいつは鬼か。αの誘惑にΩが抵抗などできるはずがない。
このまま俺のファーストキッスは綾木に奪われてしまうのだろうか・・・。
30にもなって、ファーストキスの相手を選り好みしている場合では無いのかもしれないが、このシチュエーション、相手が女性だったら良かったのに~・・・
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