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第39話 番外編 藤と莉央と・・・ 3
「そんなことで、俺から離れたワケ?」
「そ・・・っ、んなこと、って」
俺を見限っていなくなったんじゃないと知りホッとして、思わず無神経な言い方をしてしまった俺は、振り返った莉央の潤んだ瞳で キッ と睨まれてしまう。
「俺はっ、藤と番になったのに、ゲロ吐きながらよく知りもしない奴等にっ、輪姦されて腹一杯になるまで汚いっ精子ぶち込まれて・・・!」
言葉に詰まりながら ボロッ と大きな涙が零れる。
「わ、悪かった!今のは俺の言い方が最低だった!ごめん!」
「そうじゃない!謝らなきゃならなかったのは、俺のほうなの、に・・・ あの時俺は、藤の気持ちを・・・信じれなくて、逃げたんだ」
莉央は悪くない。きっと俺がそう思わせた。莉央にそんなことがあったのに、俺は何も知らずに何もできずに・・・もっとちゃんとこいつを見ていたら、こいつの変化を感じ取れていたなら・・・
「ごめんな」
「どうして藤が謝るんだよ。・・・てか、今日お前謝ってばっか。そんなキャラだっけ?」
莉央は泣きながら ふっ と吹き出す。
「もうお前に逃げられたくないから。優しくして甘やかして、やっぱり俺がいいって言わせたいんだよ。だめ?」
「・・・・・・」
答えない莉央。
まだ俺のことが好きだと信じたい。それが『番』だからって都合のいい解釈でも構わない。
何より、見過ごせない事実がある。
「藤莉は、俺の子なんだろ」
「・・・・・・・・・そうだよ」
聞き取れないくらいの小さな声。
やっぱりそうだったんだ。
「だったらどうして言わなかったんだよ」
「妊娠に気付いたのは藤と離れた後だった。・・・怖かったよ。誰の子なのか、わからなかったから。
もし藤の子じゃなかったら・・・、例え藤の子だったとしても、お前と最後にしたのはあのパーティの前だ。
産まれてすぐ顔を見て、藤の子だってわかったよ。でも腹の中でこの子は、変態達のクソみたいな精子に塗れて・・・」
「言ってくれたら俺は・・・」
「それでも可愛いって抱いてくれた?汚れた俺の中で汚されて育って、そんなでも無条件に愛してくれた?」
それは・・・
もし過去の俺が莉央に何もかもを打ち明けられていたら、どう思ったんだろう。
辛辣な言葉で莉央を罵って傷つけていたかもしれない。藤莉を忌み嫌ってしまったかもしれない・・・
そんな考えが頭を過ぎった。
だけど今の俺は違う。
両親や久遠の旦那様からは優しさを教わった。豪様からは自分以外の誰かを愛することを教わった。そしてその為なら、バカバカしいほど純粋に強くなれることを茜様と綾木様から教わった。
莉央と離れていた間に知ったのは、自分の弱さだけじゃない。無駄じゃなかった。
ここでこうして莉央を抱きしめるために必要なものが、今の俺にはある。
「莉央が許してくれるなら、俺はふたりと家族になりたい。共有した時間はすげー短いし、理由も無くて根拠も無いんだけど・・・」
体の真ん中からとめどなく溢れてくる知らない感情。それはきっと
「莉央のことも藤莉のことも愛しくて堪らないんだ」
きっと『愛』だと思う。
「なん・・・だよっ、それ。そんな、恥ずかしいこと言うの、あの藤だとっ思えない!」
大粒の雫が莉央の足元にぱたぱたと落ちて、床で小さく弾けている。
俺だと思えない、って・・・ああ、やっぱり俺は結構なクズだったんだな。そんなクズに、番になるのを許した莉央は多分、俺が想っているより遥かに俺のことが好きだったんじゃないだろうか。
と自惚れたくなった。
「なあ莉央、好きだよ」
項の噛み痕を舌先でなぞる。
「っ、 今、それ言うの・・・ズルイだろっ」
ぶわっ と噎せ返るほど甘い香りが俺達を包む。
「ずっとひとりで抱えさせてごめん。許してくれる?」
「悪いのは俺・・・なのに、ゆるす、とか。意味わかんないしっ、だいたい藤の何を、許せばいいんだよっ!?」
「莉央が頼れないほど子供だった俺。あとは藤莉に父親だって打ち明けること。それと」
俺は莉央と番の契約をした時と同じように、彼の項に歯を立てる。
「ッ・・・ぁ・・・」
「莉央が俺のものだって再確認すること」
耳元で囁くと、前屈みになって びくびくと体を震わせる莉央。
項を噛んだだけでイクなんて。わざわざ確認しなくても、やっぱり莉央は俺だけのものだ。
当然それだけじゃ俺は足りない。
声を噛み殺し荒くなる息だけを吐き出す莉央の口を指でこじ開け、彼のトップスの裾を捲り上げたその手で胸の先を撫でると
「は・・・ぁ、や・・・っ」
俺の腕を掴んで嫌がる素振りを見せる。
その手に力が無いのは、莉央が放つΩフェロモンで俺が誘われているように、俺がダダ漏れにしているαのフェロモンに彼の体が従順になっているからだ。
「莉央、今でも俺が好き?」
「ふ・・・ぁ、・・・」
数秒の間の後で莉央は コクン と頷く。
言葉は無くても、莉央の全身が『好きだ』と答えてる。自惚れじゃなくそう感じて胸がじわっと熱くなった。
「ごめんな莉央。もう遠慮してやれない」
「最初から、してないだろっ」
ぐるっと体を回転させた莉央に頭を引き寄せられて唇が重なる。
突然のキスに驚くと
「藤のそんな顔、初めて見た。ははっ」
莉央は泣き顔を笑顔に変える。
再会して初めて見せてくれたその表情に、今度は俺の方が泣きそうになってしまう。
離れていた6年間が埋まるわけじゃない。時間を巻き戻す事もできない。俺にできるのは、莉央と藤莉とのこれからの時間を考える事だけだ。
・・・でもその前に
「限界だから、抱いていい?」
藤莉の頬の涙を唇で掬う。
「き、聞くなよ!ほんっと何なの!? 藤が甘ったるいとか調子狂う!」
過去の俺は甘くなかったのか。だったら今は、莉央が溶けるまで甘やかしてやらなきゃな。
彼を抱え上げソファまで運び、抱えたまま腰を下ろすと
「ちょ、ちょっと待って。こういうの・・・恥ずかしい。普通にしろよ」
膝の上の莉央が俯く。
この俯きは嘘をつく時の癖とは違う意味だってわかってる。だけど都合のいい解釈をしたい俺は『恥ずかしい』も『普通にしろ』も『こういうの好き』『もっとして』にすり替えてしまいたくなる。
膝の上に乗せたことで、俺よりもほんの少しだけ目線が高くなった莉央の顔を覗き込むように口付ける。
唇を食むようにすると、応えるように俺と同じ動きをする莉央。舌で啄くとまた同じように。湿った舌先を ちゅ と吸うと、鼻にかかった吐息だけを漏らした。
甘い。莉央の匂いも唾液も。俺の方が溶かされてしまいそうだ。
「莉央・・・す」
「パパぁ・・・?」
リビングのドアが開く音と同時に眠気を含んだ可愛い声がして
「と、とーりっ!どどどしたっ!?」
「ふぐぅ・・・ッ」
俺の腹に手を着いて勢いをつけた莉央が膝の上から飛び下りる。
「おしっこー」
「もー。だからココア飲んじゃダメって言ったのにー。ほらトイレ行くよ」
藤莉を連れてリビングから出て行く莉央。
ソファに一人残された俺は、成人男性の体重を一点に受けダメージを食らった腹を抑えて蹲る。
うう・・・っ。なんってタイミングで起きてくるんだよ、藤莉~(涙)。
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