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第45話 違和感のその先 2

・・・・・・なーんて思ってたのに。 「いやー、久遠さんとこのご子息は2人とも色男で羨ましいなぁ」 「パートナーがいなかったら、ぜひ、と言いたいところですよ~」 ・・・おかしい。和やかすぎる。何故だ。 懇意にしている建設会社社長の還暦パーティ。参加者の半数以上がαで、うちが経営するホテルの宴会ホールは何とも言えない濃ゆい匂いが充満している。だとしてもこの匂いを感じ取ることができるのはΩだけなのだが。 そんなことより、やっぱり何かおかしい。発情期の俺を見ても、αの連中がギラギラしていない。 それ以前に俺自身がαのフェロモンに反応しない。抑制剤を多めに服用したからかもしれないが、発情期に抑制剤などお守り程度の気休めでしかないはず。 しかしα連中の様子を見ると、俺がΩフェロモンを撒き散らしていないのは確かなようだ。 えっえっ?もしかして俺は引きこもりを卒業して外に出るようになって、αに対する耐性がついたのだろうか。それもこれも綾木のおかげではないか? 半歩後ろにピタリと寄り添う綾木を見上げれば、視線がぶつかり優しく微笑んでくれる。 ああ、俺のパートナーはカッコイイな・・・ 胸がきゅんきゅんするぞ。 きゅんきゅん・・・ドキドキ・・・ムラムラ・・・ んん? あれ、なんだ? 急に腹の中が熱くなってきた。 腹の奥の熱はたちまち全身に広がり、身震いするほどの興奮へと俺を導く。 やはり発情期。そう簡単にΩの性質が変わるわけが無い。 「挨拶は一通り済んだんだ。もう帰ろう」 すぐに俺の異変に気付いた綾木に支えられ、ホールを出ると 「茜様、綾木様、お部屋へご案内致します。葵様からのご高配で、ご気分が優れないようでしたらお休みになれるように、と」 バトラーに言われるまま最上階の客室へと入る。 「気分が優れない時に、最上階までエレベーターに乗せようというのは・・・葵め、発情期の俺に対する意地悪か!?」 全くあいつは気配りができているようで、できていない。そんなんだから仕事でトラブルを起こすんだ! 「葵はいい部屋を用意してくれただけだろ、ツンツンすんなって。茜、ヒートで気が立ってんだよ。αだらけだったのもあるし疲れただろ、少し横になろ?」 ジャケットを脱がせネクタイを外してくれる綾木に宥められベッドに腰掛ける。 「俺より葵の肩を持つのか?」 おもしろくない。 「なに、ヤキモチ?」 「はっ、そんなわけ」 無いのだろうか。これが嫉妬なら、俺は相当に心が狭い。 「なんだ。違うんだ? せっかく茜の機嫌が直るようなことしてやろーかと思ったのに」 「別に機嫌は悪くない!でもせっかくだから、させてやる」 「へろへろしてんのに偉そーだな。すぐにめろめろになっちゃうクセに~」 揶揄う綾木の手に後ろ首を支えられ、唇を塞がれながらベッドに倒される。 項に感じる手のひらの温度に ゾクゾクが止まらない。 パーティ会場にいた時は複数のαに囲まれていても平気だったのに、綾木ひとりにこんなにも体が反応するのは何故だ。今までの発情期とは明らかに違う。 「そういえば俺、茜に言っておきたいことがあるんだった」 ああ、そういえば数日前もそんな事を言っていたな。でも 「こんな状況でする話なのか?」 俺はもう綾木に抱かれたくて、早くめろめろにして欲しくて堪らないんだが・・・ 「茜には言ってなかったけど、実は俺、従業員兼社長なんだよな。そんで思ってたよりハウスキーパーの需要ってあるみたいで、ちょこっと事業拡大しよーかと思ってて。ほぼ話固まってんだけどそんな中 佐藤さんが寿退社したいって言い出してさ~。彼女、共同経営者だったんだけど、これからは俺が代表になっちゃうしちょっと忙しくなりそうなんだけど出社は毎日じゃねーし、定時退社で真っ直ぐ帰ってくるから・・・」 「ちょ、ちょちょ・・・えっ、なん・・・?」 息継ぎもしていないような綾木の早口についていけない俺。 え、綾木が社長? 「え、だってお前、バイトからそのまんまって・・・」 「うん。そのまんまこの仕事続けてたって意味」 「え、圧が強い佐藤さんは・・・」 「元々はバイトの先輩。独立するって言うから俺が出資した。家追い出された時に、親から纏まった金持たされてたからそれで。最初は二人でやってたんだけど、どんどんスタッフの籍増えちゃってさ~。イヤ正直こんなに儲かると思ってなかった」 「はぁ」 そんなことならもっと早く言ってくれてもよかったのに。 こいつのことだ。俺が「なぜ言わなかった?」と聞いてもどうせ「聞かれなかったから」と返って来るんだろう。 ずっと綾木の事を欲の無いαだと思っていたが、それなりに野心があったんだと知り少し寂しい気持ちになる。 こいつはいつもそうだ。自分のことはあまり語らない。いつも俺を優先してくれる。 だけどな、綾木。 俺はお前の全てを知りたいと思っているし、できる限りでお前のわがままなんかにも応えてやりたい、なんて思ったりしてるんだぞ。頼りないかもしれないけど・・・。 「そうだったのか。まだ小さい会社とはいえ社長をこき使ってしまっていたな。悪かった」 「そんないいもんじゃないって。仕切ってたのは佐藤さんだし、俺は現場担当だから。・・・あとさ、もいっこいい?」 「なんだ」 綾木には驚かされてばかりだ。相手など選び放題のはずだったろうに 俺と同じく30まで童貞だったり、αなのにラット化しなかったり、ただの雇われ家政夫かと思えばちゃっかり企業済みの社長だったり。 けれど次は何を言われても驚かない自信がある。さすがに俺の方も免疫ができているはずだ。 さあ言ってみろ綾木よ。「ふ~ん」の一言で終わらせてやるから、さっさと俺を抱け! 「あのさ、項の噛み痕、消えてない」 「噛み痕・・・? きえ・・・? ・・・ええっっっ!!?」 はっ? あっ、えっ? 噛み痕が消えていない?そんなはずはない。綾木につけられた痕はいつも2日もすればきれいさっぱり消えて無くなるはず。 覆いかぶさっている綾木を押しのけ、ドレッサーに駆け寄り項を確認しようとしたが、慌てているせいか くるくるとその場で回るだけで上手く項を鏡に映すことができない。 ええい、もどかしい! 「ハイ」 見兼ねた綾木に手鏡を手渡され、合わせ鏡の中の項を見て、俺はゴクリと唾を飲んですぐに息が詰まる。 ある・・・ 楕円形に内出血が浮かぶ肌の上に、綾木のつけた噛み痕が。

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